2018年10月一覧

第1765話 2018/10/02

土器と瓦による遺構編年の難しさ(2)

 土器編年には長所と短所があり、そのことをよく理解した上で利用することが必要です。その長所は、日本列島の遺跡の年代を編年するうえで、古くは縄文時代から現代まで使用されてきた土器ですから、その様式比較により時代を区分するようなおおまかな相対編年が可能であるという点です。
 これまでの全国の考古学者の努力により、土器の相対編年は地域毎にかなり綿密になされ、かつ大量の報告書が出されています。むしろ、その出土量が膨大すぎて考古学者個々人では処理や理解に限界があり、データを活かし切れていないようにも見えます。ただ、今後は人工知能の発達によりデジタルデータとして瞬時に各地の遺跡の土器と比較したり、先後関係を判断できるようになることが期待できます。
 次に短所というか、その原理的な限界というべきか、土器間の相対編年はできても、その土器の暦年とのリンクが難しいことがあります。古代の土器に製造年が書かれているわけでもありませんし、土器の主成分であるシリカなどの理化学的年代測定方法も確立されていません。従って、暦年を確定できる別の出土物とのリンクが必要なのですが、そのような出土物もそれほど多いわけではありません。
 たとえば数十年から百年単位での大雑把な編年であれば、土器に付着している煤や一緒に出土した木材・植物の炭素同位体比年代測定によりリンクが可能な場合があります。その場合でも、それらカーボン類が間違いなく土器と同時代のものであることの証明が要求されます。出土層位が乱れていたり、後からの紛れ込みというケースもあるからです。
 更には、木材の樹齢が大きいと、その年輪の内外差だけ誤差が発生します。米などの一年性植物の場合はその点では有利です。または敷粗朶のように小枝の場合も年輪が少ないので比較的有利です。大型の木材の場合は、再利用という可能性もあって、伐採時と再利用時の年代が離れていると、やはり遺構の編年に使用する際は注意が必要です。
 最近では年輪年代測定や年輪セルロース酸素同位体比年代測定法などが発達してきましたので、条件がよければ伐採年がピンポイントでわかります。具体的事例としては大阪府狭山池の築造年代が、年輪年代測定により判明した最下層木樋の伐採年616年(推古24年)頃と判定できたことが有名です。これにより、木樋と一緒に出土した須恵器の相対編年が暦年とリンクでき、須恵器編年の精度が高まりました。
 今後、これらの理化学的方法などはますます重視されることでしょう。しかしそれでも木材の再利用などの不安定要素がありますので、やはりサンプルの信頼性や編年の原理的限界は把握しておかなければなりません。測定した炭素同位体測定による年代値をそのまま遺跡の年代と即断するのは危険です。ましてや土器の編年に間接的に利用する場合はなおさら用心深く取り扱う必要があるのです。この点、古田学派の研究者の論稿にも不用心な「測定値」の利用(誤用)が散見されますので注意を促しておきたいと思います。わたし自身も若い頃にこうした編年の失敗をしてきましたので、あたらためて自戒したいと思います。(つづく)