第2024話 2019/10/28

『日本思想史学』第51号のご紹介
 〝冥界からの贈り物〟

 「日本思想史学会」から機関誌『日本思想史学』第51号が届きました。わたしは「古田史学の会」の他にも各地の古代史研究会や、仕事関係では「繊維学会」「繊維応用技術研究会」などにも参加しています。また、学会として高名な「日本思想史学会」の会員でもあります。これは古田先生からのご指示で入会したもので、先生に促されて筑波大学での総会で「古代の二倍年歴」、京都大学では「九州年号」についての研究発表を行ったことがあります。化学系学会で講演することには慣れているのですが、人文系の伝統ある「日本思想史学会」で、その大勢の専門家を前にしての発表にはちょっと足が震えました。
 古田ファンにはご存じの方も多いと思いますが、日本思想史学は東北大学の村岡典嗣先生が提唱された学問領域であり、それが引き継がれて「日本思想史学会」が発足しました。ですから、村岡先生の「最後の弟子」である古田先生は同学会の重鎮でした。そうしたご縁もあり、大阪府立大学なんばキャンパスで執り行った古田先生の追悼式典には、「日本思想史学会」の会長だった佐藤弘夫さん(東北大学教授、中世思想史研究者)から御弔文をいただけました(『古田武彦は死なず』明石書店刊に収録)。
 今回の『日本思想史学』第51号の論文で特に興味深く拝読したのが尾留川方孝さんの「神漏伎・神漏弥および天神の性質と役割」です。尾留川さんは『日本書紀』などに見える「天神」とは誰のことなのかというテーマを論じ、「天神は命じるのみで、自ら行動せず客体にもならない」とされ、「天孫降臨にいたる一連の出来事のなかで、天神は天下の統治を天孫に命じている」という例をあげられ、神武東征も同様に天神の命令を受けて開始されていることを指摘されました。
 わたしは『記紀』の神武東征説話中の「天神子」「天神御子」説話部分は天孫降臨説話からの転用とする仮説を発表(注)していますが、尾留川さんの視点(仮説)を採用すれば、その転用は神武東征説話の冒頭部分にもなされていたと考えなければならないかもしれません。そうした意味から、『日本思想史学』第51号は古代史研究にも関わる貴重な一冊であり、冥界におられる古田先生からの贈り物のような気がしました。

(注)
 古賀達也「盗まれた降臨神話 ー『古事記』神武東征説話の新・史料批判ー」、『古田史学会報』48号、2002年2月。
 古賀達也「続・盗まれた降臨神話 ー『日本書紀』神武東征説話の新・史料批判ー」、『古代に真実を求めて』第六集、2003年4月。古田史学の会編、明石書店。

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