2021年07月01日一覧

第2506話 2021/07/01

九州王朝(倭国)の仏典受容史 (4)

 ―「如意宝珠」(魚の眼精)信仰と経典―

 今日は小雨の中を自転車で洛彩館(京都市左京区)に行きました。目的は同館が所蔵する『大正新脩大蔵経』の閲覧とコピーです。具体的には、古田先生が『失われた九州王朝』(注①)の「第三章 高句麗王碑と倭国の展開 阿蘇山と如意宝珠」において、「如意宝珠」の〝出典〟として紹介された次の経典を精査するためです。

(1)『大宝積宝経』「第百十 賢護長者会」
(2)『大乗理趣六波羅密多経』「第三 発菩提心品」
(3)『雑宝蔵経』「第七 婆羅門、以如意珠施仏出家得道縁」

 『隋書』俀国伝には、倭人の信仰対象として「如意宝珠」(魚の眼精)のことが記されており、古田先生は次のように分析されました。

〝「魚の眼精」への信仰は、本来、海洋の民の民俗的信仰に属するものであろう。しかも注目すべきは、それが仏教的概念と結合した信仰形態をなしていることだ。いわば、もっとも早い神仏融合説であろう。すなわち、わが国の仏教信仰の、もっとも古い民間受容形態の一つがここに語られているのである。(中略)同時に、右にあげたような経典名(ことに(2)(3))は、当時の「俀国」に影響を与えた仏教の性格をうかがう上で、絶好の、新しい扉の戸口となることであろう。〟『失われた九州王朝』ミネルヴァ書房版261~262頁

 本テーマの「九州王朝(倭国)の仏典受容史」を研究するために、わたしはこれらの経典の全容を知りたかったのです。この調査のため、久しぶりに『大正新脩大蔵経』を検索・閲覧しましたが、この膨大な仏典群の中から「如意宝珠」を見つけ出された、古田先生の集中力と根気強さには驚きました(注②)。これは実際にやってみて、わかることでした。
 ところが、『大正新脩大蔵経』に『大乗理趣六波羅密多経』はあるのですが、肝心の「発菩提心品第三」部分が欠落しているのです。洛彩館の方にそのことを指摘し、他の蔵書中に『大乗理趣六波羅密多経』がないか探していただいたところ、「発菩提心品」であればあるとのこと。それらを閉架の収蔵庫から取り出してもらったところ、いずれも同名の別書でした。それで諦めていたところ、ご年配の担当者が「これはどうでしょうか」と差し出されたのが『印度学仏教学研究』(注③)という古い雑誌でした。残念ながら、そこに収録されていた「発菩提心品」も別物でした。ところが、それとは別に阿弥陀経に関する論文があり、その内容がとても興味深いものでした。(つづく)

(注)
①古田武彦『失われた九州王朝』朝日新聞社、昭和四八年(1973)。ミネルヴァ書房より復刻。
②今回の『大正新脩大蔵経』閲覧調査により、『大宝積宝経』の「第百九 賢護長者会第三十九之一」にも「如意珠」の語を見出した。
③『印度学仏教学研究』第14巻 第2号。日本印度学仏教学会、昭和四一年(1966)三月。