2021年07月08日一覧

第2514話 2021/07/08

九州王朝(倭国)の仏典受容史 (10)

九州年号「蔵和」の出典は『大乘菩薩藏正法經』か

 『大正新脩大蔵経』の検索サイト「SAT大蔵経DB 2018」(注①)を利用して、九州年号「僧要」(635~639年)に続いて、九州年号「蔵和」(559~563年)の出典を調べました。検索すると多くの経典がヒットしますが、その多くが「三蔵和尚」「三蔵和上」などで、その他に「○○蔵和合」(菩薩蔵和合、如来蔵和合、衆生蔵和合、地蔵和合、他)もありました。いずれにしても単語や文章中の二文字です。しかし、九州王朝(倭国)の時代、七世紀以前の漢訳となりますと、次の経典が検索されました。

○『佛説大乘菩薩藏正法經卷第二十』竺法護 訳
 「所有諸大菩薩藏 和合甚深正法義」

 ウィキペディアによれば、竺法護(じく ほうご、239~316年)は西晋時代に活躍した西域僧で、鳩摩羅什以前に多くの漢訳経典にたずさわった代表的な訳経僧とのこと。別に敦煌菩薩、月氏(または月支)菩薩、竺曇摩羅刹とも称され、漢訳した経典は約150部300巻に及ぶとあります。
 九州年号「蔵和」の出典がこのような経典でしたら、『万葉集』「梅花の歌」序文中の漢字二文字を〝集成〟した「令和」(注②)と同様に、九州王朝も経典内の「大菩薩藏」と「和合」の二つの単語から、その末尾と冒頭の二文字を〝集成〟して「蔵和」という年号にしたことになります。この理解が正しいかどうか断定はできませんが、一仮説として提起したいと思います。(つづく)

(注)
①SAT大蔵経テキストデータベース研究会 https://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT2018/master30.php。
②現在の年号「令和」(2019年~)は、『万葉集』巻五「梅花の歌」序の一節「初春令月、気淑風和、梅披鏡前之粉、蘭薫珮後之香」を出典とする。