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第623話 2013/11/23

「学問は実証よりも論証を重んじる」(2)

 村岡典嗣(むらおかつねつぐ)先生の言葉「学問は実証よりも論証を重んじる」の意味をわかりやすく伝えるために、どのような説明をすればよいのかを考えてきたのですが、関西例会では「足利事件」の冤罪を例に出して次のように説明しました。
 女児が誘拐殺害された「足利事件」での冤罪発生の要因や構造は複雑なものとされているようですが、「有罪」の決め手とされたのは当時としては最先端技術 だったDNA鑑定(実証)でした。他方、容疑者の供述内容や動機、目撃者証言との不一致などは、犯人と断定するには不自然で論理的ではありませんでした。 しかし、裁判所もDNA鑑定(実証)を重視し、犯人と断定するには不自然と考えざるを得ない論理的判断(論証)を退けて、有罪としました。その結果、 DNAの再鑑定がなされるまで、無実の人が長年月投獄されるという悲劇的冤罪事件が発生しました。有名な冤罪事件でしたから、ご存じの方も少なくないと思 います。
 このとき、警察や裁判所が「実証」よりも「論証」を重視しなければならないという学問の性格を理解していれば、この冤罪事件は発生しなかったでしょう し、真犯人を時効として取り逃がすこともなかったかもしれません。わたしはこの「足利事件」の例を紹介説明し、実証よりも論証が重要であることの一例とし て紹介したのです。もちろん、これは実証を軽視してもよいという意味では全くありませんので、誤解されないようにしてください。
 犯罪捜査も歴史研究も過去におきた事件の真実を明らかにするという点において、似たような性格を有しています。しかし古代史研究においては、当時の関係 者はいませんし、弁護士もつきませんし、古代人自ら反論することもできません。従って、誤った仮説を発表し、古代人を「冤罪」に陥れないという覚悟と慎重 さと、深く考え抜いた論証が必要なのです。(つづく)