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第723話 2014/06/09

「古田史学の会」のフリーミアム戦略

 Eテレの「辞書を編む人たち」という番組を見ました。『大辞林』の編集部の様子を紹介したもので、若者が使う新語の語釈に苦労する編集員の仕事ぶりや、電子版の普及により、紙版の発行部数が往年の二十分の一にまで減少したことによる、編集方針やビジネスモデルの変更などが紹介されていました。
 インターネット時代にあって、紙媒体(『古田史学会報』『古代に真実を求めて』)と電子媒体(HP「新古代学の扉」)をどのように位置づけて活用するのかは、わたしたち「古田史学の会」にとっても重要な課題です。そこで今回は電子媒体(HP「新古代学の扉」)のマーケティング戦略について解説したいと思 います。
 ある日の関西例会後の懇親会で、会員の伊藤隆之さん(神戸市)からHP「新古代学の扉」について、次のような質問をいただきました。
 「ホームページで『古田史学会報』等を、数年遅れで無償で公開しているが、これでは会費を支払って会員になるメリットが減り、入会者数に影響するのではないか。」というものです。
 まことにもっともなご質問でした。そこで、わたしはマーケティング論でいうところのフリーミアム戦略を採用していることを説明しました。このフリーミアムというマーケティング用語は、フリー(無料)とプレミアム(割増金)の合成語で、無料でサービスを利用できるが、より良いサービスへアップグレードした い人は課金される有料サービスを選択できるというビジネスモデルのことです。このフリーミアムというビジネスモデルはインターネットの普及により、様々な分野で採用されています。有名なものではケータイやスマホのゲームでしょう。
 このフリーミアム戦略の特長は、サービスを無料にすることでターゲット顧客を劇的に増やせることと、その無料サービス提供にかかるコストが低いことで す。そして、このビジネスモデルが成功する条件として、無料使用の顧客の中から一定の比率で有償顧客を獲得しなければならないということです。そのためには、多くの無償顧客が集まるような面白いコンテンツを用意することと、その面白さを更に上回る有償サービスを準備することが不可欠となります。業種やサー ビスの内容で異なりますが、無償顧客から有償顧客にかわる比率は2%程度が想定されているようで、それで事業継続を可能とする利益が得られるように事業設計されています。このように、フリーミアムというマーケティング戦略が飛躍的に発展したのは、インターネットの普及でターゲット顧客が劇的に増加し、無料サービス提供コストが圧倒的に少なくてすむようになったからです。
 わたしたち「古田史学の会」がホームページを開設した当初は、古田史学や「古田史学の会」を世に広く紹介するという広報宣伝活動が主目的でしたから、戦略的マーケティングの一環としてはそれほど深く意識していませんでした。わたしが会運営等にマーケティング論を意識し始めたのは、勤務先での職種を製造・ 品質管理・研究開発部門と渡り歩き、7年前に企画開発を含むマーケティング部門に異動になったことがきっかけでした。
 30代前半の頃、勤務先の中期経営計画策定プロジェクトメンバーとして経営コンサルタントから猛特訓を受けた経験がありましたから、経営戦略やマーケ ティングの初歩について少しは聞きかじっていたのですが、50代になりマーケティング部門への異動に伴って、最新の経営戦略やマーケティング理論を再勉強しました。そうしたこともあって、「古田史学の会」の運営にマーケティング理論を意識的に応用するようになりました。そして、顧客(会員)獲得のためのプ ラットホームとしてホームページを位置づけ、更にフリーミアム戦略を採用することにしたのでした。
 幸い、インターネット担当の横田幸男さん(古田史学の会・全国世話人、東大阪市)のご尽力により、HP「新古代学の扉」のコンテンツを強化し、「古田史学のことを知りたければこのHPだ」と言われるまでになりました。しかし、更にHPの知名度を上げ(検索で上位にヒットさせる)、「無償顧客」を飛躍的に増やすには十分ではなかったので、HPへのアクセス件数(来場者数)を増やすため、常にHPを更新する必要を感じました。そこで、わたしは「洛中洛外日 記」を連載することを決意し、「古田史学の会」役員会の承認を得て、連載を開始したのです。そして、この企画は予想通りの成果を上げました。HPを見て、 例会に参加したり、入会する人が増え始めたのです。
 紙媒体(『古田史学会報』『古代に真実を求めて』)は初期の古田ファンの獲得には有効でしたが、草創期会員の高齢化による退会が常に発生する時代に突入しましたから、会の財政基盤を支えるためにも会員数維持・増加が不可欠です。そうしたことから、インターネット世代の会員獲得が重要テーマとなり、フリーミアム戦略の採用は必然の流れでもありました。おそらく、無償顧客から有償顧客(会員)への変更率(入会率)は0.1%以下だと思いますが、「古田史学の会」は非営利組織ですので、その程度の変更率でも十分にビジネスモデルとして機能します。
 今後は無償顧客の満足度を高めつつ、有償顧客(会員)の満足度を更に高める施策が重要です。『古田史学会報』や『古代に真実を求めて』の充実(読みやすく、面白い、役に立つ紙面作り)と同時に、記念講演会・例会・遺跡巡りなどのイベント、書籍発行事業など、課題は山積みです。これらの課題を解決し、成果を上げ続けるためには、みなさんのご支持ご協力が必要です。
 最後に一言付け加えますと、どれほど優れたマーケティング戦略を採ろうと、わたしたち「古田史学の会」のような非営利組織にとって最も大切なものはミッション(歴史的使命)です。ここがぶれたり曖昧にしたら組織の未来はありません。このことを申し述べて、これからもよろしくお願い申しあげます。