2015年11月一覧

第1088話 2015/11/07

蕉門の離合の迹を辿りつつ

 31歳のとき、古田先生の門を叩いて30年近くになりました。古田先生が亡くなられてから、先生との思い出が次から次へとよみがえります。
 嵐のような和田家文書偽作キャンペーンと古田バッシングがおき、先生とわたしは週刊誌などでも名指しで叩かれ、兄弟子と慕っていた多くの人々が先生から離れていく様を、わたしは30代から40代の若き日に目の当たりにしました。そのような最中、古田先生と二人だけで三重県津市に行きました。1997年10月のことです。
 その年、『奥の細道』芭蕉自筆本とされるものが現れ、津市の美術館で展示されると聞き、先生と二人で訪問したのです。『奥の細道』の開かれたページを二人でガラス越しに1時間以上も食い入るように見つめました。その筆跡を目に焼き付けるためです。後日、持ち主(古美術商)から、直接すべてのページを見せていただける機会が訪れるのですが、そのときはガラス越しに見ることが唯一の観察手段でした。このような機会を通して、わたしは先生から古文書研究の執念と方法を学びました。
 津市へ向かう列車の中で、わたしは先生から一冊の本をいただきました。『許六 去来 俳諧問答』(岩波文庫、横沢三郎校註。1954年)です。その本には次のような一文が添えられていました。

「-蕉門の離合の迹を辿りつつ(第三章等)-
変る人々多き中、変らぬ心
をお寄せいただくこと、この生涯最大
の幸と存じます。
   一九九七、十月十九日 津紀行中
古賀達也様  古田武彦」

 芭蕉没後にその弟子たちは離合を続けました。中には、「門戸を張らんが為に師を軽侮して己の優位を示そうとする者」まで出ます(同書「解説」より)。偽作キャンペーンが吹き荒れるなか、古田先生がこの本を下さったお気持ちは、痛いほどわかりました。先生亡き今、その思いをより切実に受け止めています。
 この岩波文庫の小さな一冊は今も大切に持っています。わたしの宝物の一つとして。


第1087話 2015/11/03

慟哭の10月

 今日は会社で『フリードランダー』(FRIEDLANDER  FORTSCHRITTE DER TEERFARBEN-FABRIKATION 1887-1890)を書庫から探し出して読みました。同書はドイツの有機合成化学の論文集で、現在進めている開発案件が暗礁に乗り上げたため、もう一度古典的合成ルートから確認する必要を感じて読んだものです。表紙もかなり痛んでいる貴重書で、国内で所蔵しているところはかなり珍しいでしょう。
 Dr.Rudolf Nietzki による1890年の論文を探すのが目的でした。日本で言えば明治時代の論文なのですが、今から120年以上も前にドイツではこれだけの化学研究水準だったのかと感動しました。その一部は今でも実際に工業的に使われている化学反応ですから、当時のドイツの工業力や化学技術力はすごいものです。これでは欧米列強により日本以外の有色人種の国々が植民地となり、奴隷状態におかれたのも残念ながらよく理解できます。本当に明治維新による近代化が間に合って、日本国民は幸福でした。
 同書はドイツ語で書かれていますから、最初はほとんど理解できませんでしたが、読んでいるうちに40年前に学校で習ったドイツ語(工業ドイツ語)の単語が少しずつよみがえり、何とか目的の論文であるかどうかは判断できるようになりました。10代の頃習ったドイツ語が還暦になって役立つとは、不思議な感じです。

 10月14日に古田先生が亡くなられ、「慟哭の10月」となりました。「慟哭」の出典は『論語』です。

 「顔淵死す。子、之を哭して慟す。従者曰く、子慟せりと。曰く、慟する有りしか。夫(か)の人の為に慟するに非ずして、誰が為にかせんと。」
              『論語』先進第十一

 「夫(か)の人」最愛の弟子、顔淵の死に、孔子が慟哭したというものです。わたしは尊敬する師を失い、「慟哭の10月」でした。

 その「慟哭の10月」に配信した「洛中洛外日記【号外】」のタイトルは次の通りです。配信をご希望される会員は担当(竹村順弘事務局次長)まで、メールでお申し込みください。

10月の「洛中洛外日記【号外】」配信タイトル

2015/10/03 王仲殊さんご逝去
2015/10/10 映画「図書館戦争」(テレビ録画)の感想
2015/10/11 五戸弁護士からのお礼状
2015/10/13 金沢大学4年生、Kさんからのメール
2015/10/14 『歴史読本』休刊と出版事業の課題
2015/10/17 各界・各氏から弔意のお電話とメール来信
2015/10/22 学士会館での三団体協議
2015/10/27 学士会館での懇談余話
2015/10/31 フェスタ’15 JTCC近畿で講演


第1086話 2015/11/01

大好評! フェスタ’15 JTCC講演会

 昨日、大阪市中央区のエル・おおさかで開催された「フェスタ’15 JTCC近畿」(主催 JTCC近畿:日本繊維技術士センター)で、「理系が読む『倭人伝』 -「邪馬台国」女王卑弥呼の末裔-」というテーマで講演し、邪馬壹国説や九州王朝説、九州年号論までご紹介しました。わたし自身もおどろくほどのご好評をいただき、参加されていた他の団体役員の方から2件の講演依頼までいただきました(大阪・名古屋)。
 わたしの前にご講演された東洋紡株式会社・代表取締役会長の坂元龍三さんからも会場最前列でわたしの話をお聞きいただき、過分のお言葉をいただきました。その後の懇親会場でも、多くの方から次々とご質問をいただきましたし、名刺交換も多数させていただきました。
 染料合成化学の第一人者で大先輩の安部田貞治先生(住友化学OB。同氏の著書や論文で、わたしは若い頃、染料合成化学を学びました)からは、以前、わたしが講演した機能性色素の話よりも面白かったと、微妙なお褒めの言葉を賜りました。わたしの機能性色素の講演は面白くなかったのかと、ちょっと複雑な気持ちになり、苦笑いしました。11月末にも大阪中之島(繊維機械学会)で機能性色素の講演をするのですが、安部田先生から猛烈なプレッシャーをかけられてしまいました。
 「古田史学の会」の会合があるため、懇親会を途中で退席したいと申し上げたところ、司会の方がマイクで会場の皆さんに「講師の古賀さんが御用事で退席されますので、質問される方は今の内にお願いします。」とアナウンスまでしていただきました。
 古田説・九州王朝説をご存じない方はまだまだ多く、それだけにこうした講演で、初めて知った方々からの反響が大きいということでしょう。これからも、もっともっと積極的に講演活動を進めたいと思いました。主催者の方々をはじめ聴講していただいた皆様に心より御礼申し上げます。