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第2257話 2020/10/10

古田武彦先生の遺訓(3)

中国国家プロジェクト「夏商周断代工程」の方法

 中国の国家プロジェクトとして実施された中国古代王朝の絶対年代決定プロジェクト「夏商周断代工程」を紹介した岳南著『夏王朝は幻ではなかった 一二〇〇年遡った中国文明史の起源』(柏書房、2005年)を読みましたが、その学問の方法には納得できていません。もちろん、プロジェクトの報告書ではなく日本語訳された概要と結論の紹介ですから、断定はできません。
 同書によれば、プロジェクトの方法論とは、複数の古典史料に記された年代や天文現象(日食など)の史料事実の取捨選択、金文(青銅器に記された文字記録)の紀年や記事の解釈、出土物(炭・人骨など)の放射性炭素C14年代測定、古天文学による天体現象の暦年復元、これらの研究結果が一致・近似するケースを求め、古代王朝の王の即位年代を確定していくというものです。このように、測定・観察方法が原理的に異なる複数分野の方法により求められた結論が一致する場合は、その仮説や結論はより真実であるという考え方は、自然科学分野でもクロスチェックとしてよく用いられています。
 こうした方法で「確定」された国家プロジェクト「夏商周断代工程」の結論の一つとして、周の武王が殷(商)を滅ぼした年代「前1046年」の「確定」があります。そして、この「前1046年」などを定点として、周王(武王から幽王まで)の在位年代が次々と「確定」されました。更に、夏王朝の始まりは「ほぼ前2070年」、殷(商)の始まりは「ほぼ前1600年」などと「確定」されたのです。
 1996年5月から開始されたこの国家プロジェクトの「段階的成果」は、国家科学技術部の承認を経て、2000年11月9日に北京で正式に発表されました。2004年1月には国家科学技術部に報告書が提出され、審査を受けて承認されたとあります。ちなみに、同プロジェクトが政府(国務院)の「指導グループ」からの全過程にわたる「指導」に基づいて実施されたことが次のように記されています。

 「幸いなことに《プロジェクト》が始まる段階から政府と社会各界の力強い支持を受けた。国務院の七部門の主要な責任者からなる指導グループは、全過程にわたって支持と指導を怠らず、実施過程で遭遇した重大な問題や困難の解決を力強く支援してくれた。」267頁

 全過程にわたる政府の「指導」により実施され、結果が「承認」される、という「学術研究」はわたしには理解し難いのですが、これもお国柄なのでしょう。
 他方、従来の文献研究では『竹書紀年』(古本)に記された周の武王が殷(商)を滅ぼした年代は前1027年と解読されてきました。プロジェクト「夏商周断代工程」が「確定」した「前1046年」説が〝正しい〟とするのであれば、なぜ『竹書紀年』に〝正しくない〟年代が記されたのかという研究(論証)が文献史学では必要ですが、『夏王朝は幻ではなかった』にはそのことについて触れられていません。(つづく)