2022年11月02日一覧

第2869話 2022/11/02

『先代旧事本紀』研究の予察 (4)

 『先代旧事本紀』は十巻からなり、飯田季治編『標註 先代旧事紀校本』によれば、その内訳は次の通りです。〈〉内は古賀による概略ですが、正確な表現ではないかもしれません。もっと良い表現があれば、ご教示ください。

〔巻一〕
 神代本紀 〈天地開闢と天譲日天狭霧國譲月國狭霧尊〉
 神代系紀 〈神世七代〉
 陰陽本紀 〈伊弉諾・伊弉冉神話〉
〔巻二〕
 神祇本紀 〈素戔烏尊と天照大神神話〉
〔巻三〕
 天神本紀 〈饒速日降臨と随神〉
〔巻四〕
 地神本紀 〈素戔烏尊と天照大神の裔神・出雲神話〉
〔巻五〕
 天孫本紀 〈物部系の系譜〉
〔巻六〕
 皇孫本紀 〈瓊瓊杵尊の降臨と神武東征説話〉
〔巻七〕
 天皇本紀 〈神武天皇~神功皇后〉
〔巻八〕
 神皇本紀 〈応神天皇~武烈天皇〉
〔巻九〕
 帝皇本紀 〈継体天皇~推古天皇〉
〔巻十〕
 国造本紀 〈各国造の出自・由来〉

 わたしが『先代旧事本紀』を初めて読んだとき、大きな疑問に遭遇しました。物部氏系の古典であるのにもかかわらず、『古事記』『日本書紀』に記された物部麁鹿火による磐井討伐譚が見えないのです。物部麁鹿火の名前は「天孫本紀」に「物部麁鹿火連公」として見え、「此の連公は勾金橋宮御宇天皇(安閑)の御代に大連と為りて、神宮に齋き奉ず」とあります。「帝皇本紀」の継体天皇条には「物部*麁鹿火大連」(「*麁」=「森」「品」のように、「鹿」の字が三つ重なった字体)の名前は見えますが、〝磐井の乱〟記事はありませんし、〝磐井〟という人物も登場しません。
 九州王朝説の視点からすれば、九州王朝の王、筑紫君磐井を討ち取った記念すべき業績である〝磐井の乱〟での物部麁鹿火の活躍が、物部氏系古典とされる『先代旧事本紀』に全く見えないことは何とも理解しがたいことです。『先代旧事本紀』編者は『日本書紀』を読んでいたはずです。しかし、『古事記』にも『日本書紀』にも記された〝磐井の乱〟と物部麁鹿火の活躍がカットされていることに、九州王朝と物部氏の関係を探るヒントがありそうです。(つづく)