第1158話 2016/03/31

『邪馬一国への道標』が復刻

 古田先生の追悼会で、わたしは先生の代表的著作21冊を紹介しながら、そこに展開された学説や学問の方法、研究史上の位置づけなどについて紹介させていただきました。その概要は『古田武彦は死なず』に略載していますので、ご参照ください。
 3冊ずつ7項目に分けて紹介したのですが、時間的制約などのため紹介できなかった著作も少なくありませんでした。もし、あと一冊だけ紹介できるとしたら、躊躇なく『邪馬一国への道標』を上げるでしょう。その『邪馬一国への道標』が本年1月にミネルヴァ書房から復刻されました。喜びにたえません。
 同書には全編が口語体の柔らかい表現で読者に語りかけるように歴史研究の醍醐味や新発見が綴られています。巻末には小松左京さんとの対談録も収録されています。わたしが同書の中で最も感銘を受けたのが『三国志』の著者陳寿の生涯や人となりを紹介された第二章でした。『晋書』陳寿伝に記された陳寿の性格「質直」について、古田先生は次のように翻訳・解説されています。

 「(陳寿は)文章のもつ、つややかさは、司馬相如には劣りますが、“質直”つまり、その文章がズハリ、誰にも気がねせず真実をあらわす、その一点においては、あの司馬相如以上です。そこで漢の武帝の先例にならい、彼の家に埋もれている『三国志』を天子の認定による“正史”に加えられますように」(『晋書』陳寿伝中の上表文)

 この中にある「質直」について、古田先生は次のように解説されました。すなわち、「質直」とは「飾り気がなく、ストレートに事実をのべて他にはばかることがない」ということで、『論語』顔淵編の次の一文を出典として紹介されました。

 「『達』とは質直にして義を好み、言を察し、色を観(み)、慮(おもんばか)りて以て人に下るなり」

 この文を古田先生は次のように解説されています。

 「あくまで真実をストレートにのべて虚飾を排し、正義を好む。そして人々の表面の“言葉”や表面の“現象”(色)の中から、深い内面の真実をくみとる。そして深い思慮をもち、高位を求めず、他に対してへりくだっている」

 この古田先生の解説を読み、わたしは初めて自分の名前「達也」の出典が『論語』にあったことを知ったのです。「達とは質直にして義を好む」この一文を知り、以来、わたしは自らの名に恥じぬよう、「質直」を人生の指針としました。残念ながらとても陳寿のような立派な人物になれそうもありませんが、陳寿を尊敬することはできます。こうして古田先生の名著『邪馬一国への道標』は、わたしにとって忘れ得ぬ一冊となったのでした。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする