第1774話 2018/10/19

創建四天王寺の4度西偏

 「洛中洛外日記」1073話(2015/10/11)「四天王寺伽藍方位の西偏」で紹介したように、難波京の条坊はかなり正確に中心線が正方位に一致していますが、その難波京内にある現・四天王寺の主要伽藍の南北軸が真北より5度程度西に振れています(目視による)。この西偏が創建時まで遡るのか、その後の何度かの再建時に発生したものか、ずっと気になっていました。そのことについて、1073話「四天王寺伽藍方位の西偏」では次のように考えていました。

【以下、転載】
 (前略)四天王寺(天王寺)が創建された倭京二年(619年、『二中歴』による)にはまだ条坊はできていませんから、天王寺は最初から「西偏」して造営されたのではないでしょうか。その「西偏」が現在までの再建にあたり、踏襲され続けてきたという可能性です。
 もし、そうであれば九州王朝の「聖徳」が難波に天王寺を創建したときは、南北軸を真北から「西偏」させるという設計思想を採用し、その後の白雉元年(652年)に前期難波宮と条坊を造営したときは真北方位を採用したということになります。この設計思想の変化が何によるものかは不明です(後略)
【転載終わり】

 この疑問を解明するために、先日、大阪歴博を訪問し、学芸員の方に創建四天王寺の図面を見せていただきました。閉架の書庫に保管されていた昭和42年発行の分厚い書籍『四天王寺』(文化財保護委員会編、吉川弘文館)に収録されている創建四天王寺の平面図を懇切丁寧に解説していただきました。その概要は次のようなものでした。

①昭和42年当時の発掘調査平面図は「磁北」が採用されており、方位を判断する際は注意が必要である。
②創建四天王寺図面(図版136)の方位表示には、遺構の中心線が磁北から3度東偏していることが記されている。
③調査当時の磁北は約7度西偏していることから、創建四天王寺の中心線は正方位より約4度西偏していることになる。
④四天王寺は再建が繰り返され現在の伽藍に至っているが、現在も西偏していることから、創建四天王寺の4度西偏した遺構の上にそのまま再建されたこととなる。
⑤前期難波宮の中心線(正方位との差は0度40分)には及ばないが、四天王寺は正方位を意識して造営されたと考えられる。前期難波宮に付属する建物(西方官衙)にも正方位からややずれたものもある。
⑥前期難波宮以前の上町台地にあった建物遺構は正方位とは大きく離れているが、それらに比べると四天王寺は正方位を意識した造営がなされたと考えられる。

 以上、考古学者らしく発掘調査事実に基づいた慎重な説明で、『四天王寺』に記された遺構の解説とも矛盾していませんでした。同書には創建時の伽藍図面の他にも、平安時代と江戸時代(慶長・元和)の「中心伽藍復元模式図」が掲載されており、いずれも西偏した創建四天王寺の真上に同じ中心線がとられています。そのことから、現在の四天王寺が創建時の西偏を踏襲しているとしたわたしの推測は当たっていたことがわかりました。
 このような考古学的事実から推測できることは、「倭京二年」(619、『二中歴』年代歴)に「難波天王寺」(四天王寺)を創建した九州王朝は正方位を意識しながらもなぜか約4度西偏した中心線を採用し、白雉元年(652、『日本書紀』の白雉三年)に造営した前期難波宮に至り、正方位に一致した中心線を採用したことになります。この変化が、方位測定技術の向上の結果として発生したのか、「4度西偏」に何かしらの意味(設計思想)があったのかは不明ですが、この点は研究課題として留意しておきたいと思います。
 なお、学問的厳密性保持のために両遺構の編年について改めて説明しておきます。まず、『二中歴』年代歴の記事を根拠に四天王寺創建を倭京二年(619)とすることは、出土した創建軒丸瓦の考古学編年の「620年頃」と一致し、文献史学と考古学のクロスチェックが成立しており信頼性が高いと思われます。
 次いで、その創建瓦と同笵の瓦が前期難波宮整地層から出土しており、倭京二年(619)創建の四天王寺よりも前期難波宮造営が新しいことを示唆しています。更に前期難波宮の水利施設から大量に出土した須恵器杯Gの編年が七世紀前半から中頃とされており、出土木材の年輪年代測定などからも考古学的には前期難波宮の創建は七世紀中頃とされています。「戊申年」(648)木簡の出土や巨大な前期難波宮完成に対応する記事が『日本書紀』孝徳紀白雉三年(652、九州年号の白雉元年)記事に見えることから、ここでも文献史学と考古学のクロスチェックが成立しています。
 このようにクロスチェックによる安定した編年が確定している創建四天王寺や前期難波宮遺構の中心線方位に基づき、九州王朝の寺院や宮殿の設計思想の変遷を推定することが学問の方法からも重要と考えています。

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