第2511話 2021/07/05

九州王朝(倭国)の仏典受容史 (7)

 現存していた支謙訳「阿弥陀経二巻」

 膨大な『大正新脩大蔵経』の調査と漢字だらけの経典読解に悪戦苦闘していたわたしに、強力な〝助っ人〟が現れました。西村秀己さん(古田史学の会・全国世話人、高松市)からご紹介いただいた『大正新脩大蔵経』の全文デジタルデータによる検索サイト「SAT大蔵経DB 2018」(注①)です。
 この検索機能のおかげで、『大正新脩大蔵経』調査のスピードが劇的にアップし、しかも正確になりました。それまで行っていた調査作業(自転車で洛彩館に行き、『大正新脩大蔵経総索引』からめぼしい経典を探し、その分厚い収録巻を書庫から何冊も出してもらい、当該経典を読み、必要な箇所をコピーし、それを自宅に持ち帰り、繰り返し読む)が自宅のパソコンで可能となったのです。研究者として、便利な時代に生まれたもので、なんとありがたいことか。しかし、最終的には『大正新脩大蔵経』を本で読まなければなりません。経典全体の雰囲気(文字配列、細注などの状況)や新旧字体の確認が学問研究には不可欠だからです。
 早速、このサイトで「支謙」「阿弥陀経」のキーワード検索したところ、『佛説阿彌陀三耶三佛薩樓佛檀過度人道經卷上(佛説阿彌陀經上)』『阿弥陀三耶三佛薩樓檀過度人道經下(佛説阿彌陀經下)』がヒットしました。この経典名には見覚えがありました。『歴代三宝紀』巻第五(注②)にある支謙訳「阿弥陀経二巻」の細注に「内題云阿弥陀三耶三佛薩樓檀過度人道經亦云無量寿經見竺道祖呉録」とあり、「阿弥陀三耶三佛薩樓檀過度人道經」「無量寿經」の内題・別名を持っているのです。この内題と「支謙訳」「二巻本」であることが一致しており、『歴代三宝紀』の「阿弥陀経二巻」と検索でヒットした『阿弥陀三耶三佛薩樓檀過度人道經上下巻』とは同じ経典と見てよいと思います。
 力強い〝助っ人〟のおかげをもって、僧要年間(635~639年)に伝来した一切経『歴代三宝紀』中にある支謙訳「阿弥陀経二巻」を発見することができました。改めて、検索サイトをご紹介いただいた西村さんに感謝します。九州王朝(倭国)の仏典受容史研究は飛躍的に進展することでしょう。(つづく)

(注)
①SAT大蔵経テキストデータベース研究会 https://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT2018/master30.php
②隋代(開皇十七年、597年)に成立した一切経。費長房撰述。1076部、3292巻。

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