第1589話 2018/01/27

天照大神と天孫降臨の実年代

 松中祐二さんの論文「安本美典『古代天皇在位十年説』を批判する 卑弥呼=天照大神説の検証」を読みました。「九州古代史の会」の新年会で松中さんらと博多界隈で夜遅くまで飲んだのですが、そのおりに倭人の二倍年暦や天照大神の岩戸開き神話が皆既日食に基づくとした場合の実年代についての研究を聞かせていただきました。その後、冒頭の論文を送っていただいたのですが、ようやく読むことができました。
 一読して、その論究の緻密さに驚きました。さすがは理系(医師)の研究者らしく、難解な計算式を駆使し、しかも論理構成の鋭さは見事でした。その主テーマは安本美典氏の「古代天皇在位十年説」への批判ですが、古代人の寿命の短さは在位年数が短くなることを意味しないとする指摘には意表を突かれました。また、縄文人や弥生人の平均寿命や15歳での平均余命の研究を紹介され、古田先生の二倍年暦説は妥当であることを、弥生人の100歳の生存確率計算により明らかにされています。
 論文中、わたしが最も関心を抱いたのが、天照大神の実年代を平均在位数計算から求めた数値と、岩戸開き神話の背景が皆既日食であったとした場合、共に紀元前200年頃で一致するとされた論証でした。ちなみに、安本氏は天照大神を卑弥呼とする自説の根拠の一つに、3世紀に起こったとされる皆既日食をあげられているのですが、これも松中氏の研究によれば、北部九州においては安本氏が指摘した日食は日の出前に始まり、地平線に太陽が出る頃には食分は小さく、神話のような現象は発生しないと批判されています。そして、三世紀以前に発生した皆既日食としては紀元前206年に朝鮮半島南部で発生したものしか候補がなく、結論として天照大神の実年代を紀元前200年頃、場所は朝鮮半島南部洛東江流域の伽耶地方が有力とされました。
 この松中説が正しければ、天照大神や天孫降臨の実年代が紀元前200年頃となり、九州王朝の淵源を探る上でも貴重な視点となることでしょう。まさに目の覚めるような秀逸の論文でした。

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