第2642話 2021/12/21

『旧唐書』倭国伝「去京師一萬四千里」 (1)

 12月18日の「古田史学の会」関西例会で、野田利郎さんが『旧唐書』倭国伝の「去京師一萬四千里」という記事の里程についての新解釈を発表されました。唐の都(長安・洛陽)から倭国の都(福岡、大阪)までの実距離が短里(1里約77m)でも唐代の長里(1里約560m)でも、あるいはその「混合」でも一致しないため、起点の「京師」を山東半島の東莱として、「一萬四千里」を短里とする新説です。学問研究は仮説の発表と真摯な検証や論争により深化しますので、こうした新説が出されることは良いことです。
 実は同テーマについてはかなり以前にわたしも友人と検討したことがあり、懐かしく思いました。良い機会ですので、そのときの検討結果とそこに至る学問の方法について紹介することにします。もちろん、どの仮説が最も説得力を有するのかは、仮説の発表者ではなく、それを聞いた人々の判断に委ねられます。
 本テーマのような中国史書の内容についての読解を論じる場合には次のような基本的視点が必要と考えています。

(1) 史料性格を把握し、史料がどの程度真実を伝えているのかを確認する。〔史料批判〕
(2) 現在の常識や知識ではなく、当時の史料編者や読者の認識で理解する。〔フィロロギー〕
(3) 必要にして十分な根拠もなく、原文改訂してはならない。
(4) 写本間に異同がある場合は、史料批判の結果、最も信頼できる写本に依拠する。
(5) 史料批判を経た上で、同時代史料を優先する。

 以上のような視点が重要ですが、いずれも古田先生から学んだことです。(つづく)

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