2006年07月29日一覧

第92話 2006/07/29

筑後の九州年号

 九州王朝の筑後遷宮説や筑後副都説を裏づける史料状況として、九州年号の残存量が上げられます。以前に「筑後地方の九州年号」という論文(『古田史学会報』44号)で紹介したのですが、私が調べてわかっただけでも筑後地方には下記の九州年号史料が存在しています。
 初期の「善記」から末期の「朱鳥」まで多くの九州年号が諸史料に残存しているのですが、青森県から鹿児島県まで分布している九州年号史料の全国的状況と比較しても、かなり濃密な分布です。こうした史料状況からも九州王朝筑後遷宮説は有力な仮説と思われます。現地史料を丹念に調査すれば、さらに多くの九州年号が見つかるはずです。地元研究者の活躍に期待したいところです。
 なお、端正元年(589)から白鳳まで80年ほど史料の「空白」がありますが、これは7世紀初頭の大宰府建都により、九州王朝の中心勢力が筑前に移動したことと対応しているのではないでしょうか。

九州年号    西暦      出典・備考
善記 元年    522    大善寺玉垂宮縁起
明安戊辰年    548    久留米藩社方開基、三井郡大保村「御勢大霊大明神再興」 ※二中歴では「明要」。
貴楽 二年    553    久留米藩社方開基、三井郡東鰺坂両村「若宮大菩薩建立」
知僧 二年    566    久留米藩社方開基、山本郡蜷川村「荒五郎大明神龍神出現」 ※二中歴では「和僧」。
金光 元年    570     柳川鷹尾八幡太神祝詞、久留米市教育委員会蔵。
端正 元年    589    大善寺玉垂宮縁起軸銘文・太宰管内志 ※二中歴では「端政」。
白鳳 九年    669    筑後志巻之二、御勢大霊石神社 ※元年を672とする後代の改変型「白鳳」の可能性も有り。
白鳳 九年    669    永勝寺縁起、久留米市史。久留米市山本町  ※元年を672とする後代の改変型「白鳳」の可能性も有り。
白鳳 元年    672    全国神社名鑑、八女市「熊野速玉神社縁起」 ※元年を672とする後代の改変型「白鳳」。
白鳳十三年    673    高良玉垂宮縁起
白鳳十三年    673    高良山高隆寺縁起
白鳳十三年    673    高良記  ※他にも白鳳年号が散見される。
白鳳 二年    673    二十二社註式、高良玉垂神社縁起。 ※元年を672とする後代の改変型「白鳳」。
白鳳 二年    673    高良山隆慶上人伝 ※元年を672とする後代の改変型「白鳳」。
白鳳 二年    673    家勤記得集 ※元年を672とする後代の改変型「白鳳」。
白鳳 二年    673    久留米藩社方開基、竹野郡樋口村「清水寺観世音建立」 ※後代の改変型「白鳳」。
白鳳中    661〜683    大善寺古縁起二軸 外箱蓋銘
白鳳年中     661〜683     筑後志巻之三、御井寺
白鳳年中     661〜683    久留米藩社方開基、山本郡柳坂村「薬師堂建立」
白鳳年中     661〜683    高良山雑記
朱雀二年     685    宝満宮年譜、井本家記録。三池郡開村新開。
朱雀年中     684〜685    高良山雑記
朱鳥元年丁亥    686    高良山隆慶上人伝 ※干支に1年のずれがある。二中歴では朱鳥元年は丙戌。