2025年05月13日一覧

第3484話 2025/05/13

『三国志』夷蛮伝の国名表記ルール

『三国志』倭人伝の卑弥呼が都した国名は原文通り邪馬壹国とするべきで、ヤマトと読みたいがために原文改訂した「邪馬臺(台)国」とするのは否であるとした邪馬壹国説こそ、古田史学発祥の原点であり、古田先生のフィロロギーを中心とした文献史学の方法に基づいた結論であることはご存じの通りです。東京大学の『史学雑誌』に掲載された古田先生の論文「邪馬壹国」(注①)は、その年の古代史論文で最も優れたものと専門家から高く評価され、後に朝日新聞社から出版された『「邪馬台国」はなかった』(注②)は〝洛陽の紙価を高からしめた〟と称されるほど版を重ねました。

最近、この邪馬壹国説について、古田武彦支持者のなかに通説の「邪馬臺(台)国」を是とする意見があることを知り、よい機会でもあり、邪馬壹国成立の論点や、古田先生と反対論者との論争史をあらためて振り返っています。そのようなおり、古田史学の会・会員の茂山憲史さん(『古代に真実を求めて』編集部)から〝『三国志』夷蛮伝の国名表記ルール〟についてのメールが届きました。古田説に基づき、わかりやすく要点をリストにしたもので、研究にも役立ちそうです。メールから一部転載します。

【以下、転載】
先生も「まとめ」てくれてはいなかったように思いますが、みなさんの議論で「当然のこと」としてスルーされているのか、夷蛮の(中国語を母語としない国の)国名の付け方に関する一般的なルール、という論説がないように思います。誰でも分かり、異存のなさそうなルールには適用序列があります。ルールは

1)出来るだけ発音が現地国名を写すような漢字群で考える
2)その中から国のイメージや性格を表わす用字を考える
3)イメージには当初から「夷蛮」という蔑んだ意味が含まれている
4)イメージを優先したいときは、発音を少々犠牲にすることもある
5)政治的に対立すると、さらに発音を崩しても侮蔑的な字を当てる
6)夷蛮の国が漢字に習熟して国名を自称しても、中国側の呼称が優先される
7)夷蛮の国の自称を採る場合でも、音に従い用字まで受入れることは少ない
【転載おわり】

(注)
①古田武彦「邪馬壹国」『史学雑誌』78-9、1969年。
②古田武彦『「邪馬台国」はなかった ―解読された倭人伝の謎―』朝日新聞社、昭和四六年(1971)。ミネルヴァ書房より復刻。