2025年05月25日一覧

第3487話 2025/05/25

『古事記』序文研究の思い出

 古田史学の学徒にはよく知られていることですが、古田先生の事実上の処女論文は「古事記序文の成立 ―尚書正義の影響に関する考察―」でした。昭和二十年、東北大学文学部、日本思想科内部の研究会での口頭発表が、当時のまま集約され、『多元的古代の成立[下] 邪馬壹国の展開』(駸々堂出版、昭和五八年)に採録されています。

 同論文の主旨は『古事記』序文は、その文体や思想性に尚書正義の影響を色濃く受けており、それは本文にも及んでいるとするものです。このレベルの研究を古田先生は十八歳の時になされていたことに驚いたものでした。また、文体も雅文とも言うべきもので、わたしの国語力ではくり返し精読しなければ正しく理解できないものでした。その為か同論文を誤読した論者と、三十五年ほど前に、当時流行していた〝ワープロ通信〟上で論争したことなどを思い出しました。

 その後、わたしも『古事記』序文の研究を続け、「『古事記』序文の壬申大乱」(『古代に真実を求めて』第九集。明石書店、2006)をようやく発表することができました。(つづく)