幻の古谷論文
『古代に真実を求めて』16集(明石書店刊、「古田史学の会」編)をようやく発行することができました。会員の皆様や執筆者には大変ご迷惑をおかけし、お詫び申しあげます。16集は「古田史学の会」2012年度賛助会員へは特典として送付します。2013年度賛助会員へは次号17集を進呈予定です。
16集の掲載稿は下記の通りですが、奇しくも日・中の二つの金石文に関する「特集」となりました。それは「百済祢軍墓誌」と「大歳庚寅」象嵌鉄刀(福岡 市元岡古墳出土)です。いずれも九州王朝説に基づく論文で、他に見られない、「古田史学の会」らしい「特集」です。
ところが採用が決まっていたにもかかわらず、掲載できなかった「幻の論文」がありました。17集から水野さんに代わって編集責任者となった古谷弘美さん (古田史学の会・全国世話人、枚方市)の論稿で、『古事記』真福寺本の字体を調査研究されたものです。
従来は「天沼矛(あまのぬぼこ)」とされてきた文字が、真福寺本では「天沼弟(あまのぬおと)」であると古田先生が指摘され、「ぬ」は銅鐸、「おと」は 音を意味し、「ぬおと」とは「銅鐸の音」のことであるとする仮説を発表されました。ところが、古谷さんは『古事記』真福寺本では「天沼弟(あまのぬおと)」でもなく、「天治弟(あまのちおと)」であることを写真版の調査により明らかにされたのです。
従来の書誌学研究では『古事記』真福寺本は誤字が多いとされ、「天沼弟」の「弟」は「矛」の誤字とされてきました。古谷論文により、「沼」ではなく 「治」であることが明らかになったことにより、従来説・古田説を含めて新たな研究の進展が期待されるだけに、掲載できなかったことは残念です。ちなみに、 その理由は『古事記』真福寺本の写真転載料が超高額のため、「古田史学の会」や出版社で負担できなかったことによります。学問研究のための転載は安価にしていただきたいものです。このまま埋もれさせるには惜しい論文ですので、何とか工夫して掲載したいと願っています。
『古代に真実を求めて』16集の目次
○巻頭言 会員論集・第十六集発刊にあたって 水野孝夫
○1 特別掲載
最近の話題から 古田武彦
真実の学問とは — 邪馬壱国と九州王朝論 古田武彦
「和田家文書」の安日彦、長髄彦 — 秋田孝季は何故叙述を間違えたか 安彦克己
○2 研究論文
続・越智国にあった「紫宸殿」地名の考察 合田洋一
福岡市元岡古墳出土太刀の銘文について 正木裕
「大歳庚寅」象嵌鉄刀銘の考察 古賀達也
「百済祢軍墓誌」について — 「劉徳高」らの来倭との関連において 阿部周一
百済祢軍墓誌の考察 古賀達也
百済祢軍墓誌についての解説ないし体験 水野孝夫
筑紫なる「伊勢」と「山邊乃五十師乃原」 正木裕
「国県制」と「六十六国分国」 — 「常陸風土記」に現れた「行政制度」の変遷との関連において 阿部周一
「阿麻来服(「新羅本紀」記事)から解く「日本国」誕生 西井健一郎
○3 付録--会則/原稿募集要項/他
古田史学の会・会則
「古田史学の会」全国世話人・地域の会 名簿
第十七集投稿募集要項/古田史学の会 会員募集
編集後記