別冊宝島『邪馬台国とは何か』の読み方
別冊宝島『古代史再検証 邪馬台国とは何か』が発刊されました。今朝、京都駅で購入し、久留米に向かう新幹線の車中で読みました。わたしへのインタビュー記事「古田史学から見た『邪馬壹国』」が掲載されているので購入したのですが、現在の「邪馬台国」研究動向と学問的水準を把握するのに役立ちました。たまにはこうした一般の古代史ファン向けの雑誌を読むのもいいものだと思いました。
わたしのインタビュー記事を担当された常井宏平(とこい・こうへい)さんは若いフリーライターですが、その卓越した理解力と文章力により、二時間に及んだ雑多なわたしの話を要領よく、かつ説得力のある見事な記事にまとめられていました。感謝したいと思います。
またカラー写真がふんだんに掲載されており、買って損はしない一冊といえます。たとえば中国の洛陽から発見された三角縁神獣鏡や志賀島の金印、平原遺跡の漢式鏡のカラー写真などもあり、史料的にも値打ちがあります。
他方、「邪馬台国」畿内説にとどめを刺す重要な史料が、偶然とは思えない「配慮」によるものか、掲載されていませんでした。たとえば『三国志』倭人伝の版本写真が何ページかに散見するのですが、肝心要の「南至る、邪馬壹国」という部分は見事に掲載されていないのです。わたしのインタビュー記事以外は全論者・全頁が何の説明もなく「邪馬台国」と原文改訂(研究不正)した表記となっています。この事実こそ「邪馬台国とは何か」の答えになっているのかもしれません。すなわち「邪馬台国は研究不正の所産。みんなで隠せ邪馬壹国」という「答え」です。しかしながら「古田史学・邪馬壹国説」をわたしへのインタビュー記事として掲載されたのですから、これは編集者の学問的良心と受け止めたいと思います。もちろん、古田ファンにも売れるというビジネス的判断かもしれませんが、この点は出版ビジネスですから、わたしは否定しません。
更に巻末に綴じ込み付録「邪馬台国出土品 邪馬台国の謎を解く6つのアイテム」として、「銅鏡」「金印」「銅剣・銅矛」「銅鐸」「玉類」「骨角器」の美しい写真が掲載されているのですが、なぜ「鉄器」と「絹」がないのでしょうか。恐らくこの二つのアイテムの圧倒的濃密出土地域が福岡県であることから、この事実を掲載してしまえば、そもそも考古学的にも畿内説は存在不可能となってしまい、「邪馬台国とは何か」という「古代史再検証」企画が成立しなくなるのです。これは出版ビジネスとしては避けたいところでしょう。わたしも仕事でマーケティングに関わっていますから、ピジネスとして理解できないこともありません。なお、鉄器と絹の福岡県と奈良県の出土分布比較グラフは本文中にはあり、全く触れられていないということではありません。しかし、巻末の「謎を解くアイテム」に取り上げられていないことには、意図的なものを感じざるを得ません。あえて編集者の立場に立って考えれば、錆びてぼろぼろの鉄器や腐食寸前のシルクでは、カラーグラビアとしてはインパクトに乏しく、そのため不採用になったのかもしれません。
最後にこの本の読み方について述べてみます。様々な説が紹介され、各論者の意見が記されているのですが、それらのほとんどは「ああも言えれば、こうも言える」「(史料・考古学)事実はともかく、わたしはこう考えてみたい」「倭人伝中の自説に不都合な記事は信用できない。しなくてよい」「その位置は永遠の謎」「むしろ、わからなくてもよい」といった類のものか、どうとでもいえる抽象論で、およそ学問的論証レベルに達しているようには思えません(少数の例外記事を除いて)。
そして、そうした文章を延々と読まされる読者には知的フラストレーションが溜まりに溜まります。そんなときに古田史学・邪馬壹国説のページに到着し、そこで初めて、学問的論証とは何か、邪馬壹国という倭人伝原文の史料事実(真実)を知るといった演出効果が施されています。その意味では、とてもよい古代史ファン向けの一冊ではないでしょうか。わたしはお勧めします。