格助詞に着目した言素論の新展開
本日、正木裕さんのご紹介で京都地名研究会主催の講演会(注①)を聴講しました。古田先生が提唱された「言素論」に関係が深そうな研究発表があるとのことで参加することにしたものです。それは大阪市立自然史博物館の職員で昆虫学者の初宿成彦(しやけ しげひこ)さんによる「格助詞に着目した地名の要素分解」という研究発表です。
「言素論」とは、古代日本語の単語や文字表記において、「一字・一音節・一義」がより古い形態と考え、一音節ごとに言葉を分解し、その言葉の本来の意味を明らかにするという方法論です。たとえば、「魚」という字で表記される意味はfishですが、音は「ぎょ」(音読み)と「な」「うお」「さかな」(訓読み)などがあります。このfishを意味する日本語のうち、「な」を最も古いとする、これが「言素論」の基本前提です。すなわち、「魚」という表記の訓みの「一字・一音節・一義」が「な」と考えるわけです。詳細については拙稿「『言素論』研究のすすめ」(注②)をご参照下さい。
初宿さんは地名や苗字を語頭+格助詞+語尾に分解し、語頭の意味を推定し、その多くは神の名前ではないかとされました。そして、次のような例を多数紹介されました。
地名 =語頭+格助詞+語尾⇒格助詞がない同義地名
穴生 あ の お 粟生・阿尾
稲田 い な だ 井田
稲本 い な もと 井本
勝田 か つ た 加太・嘉田
神奈川 か な がわ 香川
真田 さ な だ 佐田
砂田 す な だ 須田
角田 つ の だ 津田
箕面 み の お 三尾
湊 み な と 水戸
水上 み な かみ 三上
箕輪 み の わ 三輪・三和
渡辺 わた な べ 渡部(わたべ)
上記の分解や理解がすべて正しいのかどうかはわかりませんが、言素を格助詞で繋ぎ、新たな名詞が構成されるという視点は重視すべきと思いました。今までの言素論研究に格助詞の視点を導入する必要を感じました。(つづく)
(注)
①京都地名研究会(会長:小寺慶昭氏)第57回地名フォーラム。於:キャンパスプラザ京都。
②古賀達也「『言素論』研究のすすめ」『古田武彦は死なず』(『古代に真実を求めて』19集)古田史学の会編、明石書店、2016年。