第476話 2012/10/01

「三経義疏」国内撰述説

 聖徳太子が撰述したとされる「三経義疏」(法華義疏・勝鬘経義疏・維摩経義疏)は本当に聖徳太子が書いたものかどうかの 論争が長く続いています。戦前は聖徳太子信仰などの影響で太子真筆説(花山信勝さんら)が信じられていたようですが、戦後はこのような高度な経典注釈は7世紀当時の日本ではできないとする、国外(中国・朝鮮半島)成立説(藤枝晃さんら)が有力となりました。
 近年では、百済人や渡来人撰述説など様々な説が出されていますが、わたしが最も注目しているのが、石井公成さんの日本人(倭国人)撰述説です。このところ、連日のように
石井さんのホームページ「聖徳太子研究の最前線」に掲載されている「三経義疏」に関する論稿を読んでいるのですが、この石井さんの説に魅力と説得力を感じています。
 石井さんは「国産説」の主要な根拠として、「三経義疏」には中国や朝鮮半島には見られない独特の「変格語法」(倭習)が用いられていると指摘されています。しかもそれらは「三経義疏」に共通した独特の表現であることから、同一人物により「三経義疏」が撰述された可能性にも言及されているのです。
 わたしには石井さんの説の当否を直ちに判断できる知識や能力はありませんが、少なくとも石井さんの説には説得力を感じるのです。もちろん、石井さんは近畿天皇家一元史観に立っておられますから、わたしたちはこの石井説の「研究成果」を多元史観・九州王朝説に基づいて再検証・再展開しなければなりません。 (つづく)

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