第2738話 2022/05/09

ウスリー川と和田家文書の宇曽利

 昨日の多元的古代研究会月例会にリモート参加させていただきました。佐倉市の赤尾恭司さんによる「古代の蝦夷を探る その1 考古遺跡から見た古代の北東北(北奥)」という発表がありました。東北地方の縄文遺跡の紹介をはじめ、沿海州やユーラシア大陸に及ぶ各種データや諸研究分野の解説がなされ、「円筒土器・玦状耳飾りに象徴される大凌河・遼河上流域の興隆窪(こうりゅうわ)文化」など初めて知る内容が多く、とても勉強になりました。
 特に言語学やDNA解析による古代人の移動や交流に関する研究は刺激的でした。それらの説明で使用された沿海州の地図にウスリー川があり、その中国語表記が「烏蘇里江」であることを知りました。この「烏蘇里」はウソリと読めることから、和田家文書『東日流外三郡誌』に見える地名の「宇曽利」と言語的に共通するのではないかと思いました。
 ウィキペディアではウスリー川について、次の様に説明されています。

 「ユーラシア大陸の北東部を流れる川。アムール川の支流のひとつ。ロシア沿海地方・ハバロフスク地方と中国東北部吉林省・黒竜江省の国境をなす川として重要視される。」
 「古代以来、ウスリー川の両岸にわたり、ツングース系の粛慎・挹婁・勿吉・靺鞨や女真といった民族が活動しており、中国・朝鮮との間で交易をするほか戦争も起こしていた。
 6世紀から9世紀にかけての唐の時期、勿吉は靺鞨と改称し、南の粟末靺鞨と北の黒水靺鞨にわかれ、粟末靺鞨は渤海を建国してウスリー川上流を領土に納め、黒水靺鞨はウスリー川の東岸や下流で活動した。」

 中国語名としての「烏蘇里」が古代まで遡るのかどうかは未調査ですが、日本語地名の「宇曽利(うそり)」については次のように解説されています。

「宇曽利、宇曾利(うそり)は入江を示す東北地方の地名
 芦崎湾・大湊湾・大湊港の古代の名
 宇曽利川
 宇曽利湖(宇曽利山湖)
 宇曽利山は、恐山の古名。宇曽利湖を中心とした8以上の外輪山の総称
 宇曽利蝦夷
 陸奥国糠部郡宇曽利郷
 青森県むつ市大湊・宇曽利川村。宇曽利川に因む
 宇曽利八幡宮
 青森県むつ市田名部・字宇曽利山」
 (出典:フリー百科事典『ウィキペディア』)

 青森県の下北半島に宇曽利山(恐山)・宇曽利山湖があり、ウソリはアイヌ語ウショロ(窪地・入り江・湾)の意味に由来すると説明するweb辞書もありました。また、イタコで有名な恐(オソレ)山は、宇曽利(ウソリ)山が転化した山名のようです。沿海州のウスリー川(烏蘇里江)の意味は知りませんが、両者は同一言語に由来するのではないかと想像しています。この他にも多くの気づきに恵まれた赤尾さんの発表でした。

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