新庄宗昭著『実在した倭京』を読む
本年11月に開催される八王子セミナー(古田武彦記念古代史セミナー2023、注①)で、わたしも「七世紀の律令制都城論 ―中央官僚群の発生と移動―」を発表させていただきます(注②)。わたしの発表は二日目(11月12日)の【セッションⅡ】理系から見た「倭国から日本国へ」で行いますが、同セッションでは新庄宗昭さんも〝藤原京の先行条坊〟について発表されるようです。倭国(九州王朝)から日本国(大和朝廷)への王朝交代の舞台が藤原宮ですから、テーマに適った研究です。新庄さんは建築家ですので、ケミストのわたしと共に〝理系から見た〟王朝交代研究の発表を期待されているのだと思います。
発表後にはパネルディスカッションが予定されているため、新庄さんの主張についても事前に勉強しておく必要があり、同氏から贈呈していただいた著書『実在した倭京』(注③)を繰り返し読んでいます。建築家らしい主張や視点が明快で、共感できました。なかでも、井上和人さんの次の記述を《井上命題》と呼び、同書に通底する主題として繰り返し紹介される筆致に、古田先生の学問精神と相通じるものを感じました。
〝都城の条坊道路のような体系的な施設を設定するには、周到な計画が前提とされていたという当たり前の事実であり、また、そうでなければ斎宮方格地割をはじめとする広大な領域に及ぶ都市的地割は実現し得なかったであろう。それとともに、整然とした状況を復元し難い場合には、そこには変則的な状況を生じさせざるを得なかった理由が介在していると判断する必要があるのであり、いたずらに往事の技術水準の低さに原因を帰したり、分析の不十分さあるいは分析者自身(つまり私)の不明さを等閑視して、往事の人々の作業の粗略さに理由を求めて、そこで判断を停止してはならないということも学んだ。〟(注④)
この文を氏は《井上命題》と呼び、「古代だから技術が低かっただろう、古代だから中途半端であったろう、などという研究者の判断は眉に唾をつけて読んだ方がよい。古代の技術者を蔑視すべきではない。」とされました。この意見には大賛成です。わたしも、化学者の末席を汚すものとして、理系的発想によるアプローチを試みる予定です。新庄さんとのディスカッションが楽しみです。
(注)
①正式名称は「古田武彦記念古代史セミナー2023」で公益財団法人大学セミナーハウスの主催。実行委員会に「古田史学の会」(冨川ケイ子氏)も参画している。
②古賀達也「洛中洛外日記」2980話(2023/04/06)〝八王子セミナー2023の演題と要旨(案)〟
③新庄宗昭『実在した倭京 ―藤原京先行条坊の研究―』ミネルヴァ書房、2021年。
④井上和人「斎宮方格地割研究への提言」『古代都城制条里制の実証的研究』学生社、2004年、377頁。