2015年06月10日一覧

第975話 2015/06/10

一人に二つの「諡号(おくりな)」の謎

『日本書紀』の「諡号(没後のおくりな)」について先行研究を勉強していますが、多くの論文があり、目を通すだけでも大変です。通説では淡海三船(722〜785年)が「漢風諡号」を『日本書紀』成立(720年)後に作ったとされていますが、その淡海三船が活躍した時代が、ちょうど「漢風諡号」(正確には生前の尊号)を二つ持つ孝謙・称徳天皇(聖武天皇の娘、阿倍内親王。718〜770年)の時代です。
この「漢風諡号」のような「尊号(孝謙・称徳)」を一人の天皇が二つ持つという実例を、同時代を生きた淡海三船は知悉していたはずです。したがって『日本書紀』の「漢風諡号」を作るときに、「孝謙・称徳」の例にならって、二度即位した宝皇女に「皇極・斉明」という二つの「漢風諡号」を付けることになったのではないでしょうか。このように考えれば、同一人物に二つの「漢風諡号」を付けるという奇妙な状況が説明できます。
こうした仮説が正しければ、『日本書紀』編纂時には一人の「天皇」に対して一つの「和風諡号」を付けるという『日本書紀』編纂者と、後世になって淡海三船が付けた「漢風諡号」とは編纂方針が異なっていることになります。