2018年11月30日一覧

第1794話 2018/11/30

前期難波宮と大宰府政庁出土「須恵器坏B」(2)

 小森俊寬さんの著書『京(みやこ)から出土する土器の編年的研究 -日本律令的土器様式の成立と展開、7〜19世紀-』(京都編集工房、2005年11月)に記された前期難波宮整地層出土土器の図38(91頁)には、明確に須恵器坏Bと思われるものが5点あります。この他に同蓋とされるものが4点記されていますが、本当に坏Bの蓋かどうか図からは判断しにくいように思われました。そこで容器本体部分の図を調査しました。同書の文献一覧によれば、図示された須恵器坏Bの出典は次の四書です。

『難波宮址の研究』昭和36年大阪市教育委員会1961年
『難波宮址の研究』昭和40年大阪市教育委員会1965年
『難波宮址の研究 第七』大阪市文化財協会1981年
『難波宮址の研究 第八』大阪市文化財協会1984年

 大阪歴博の図書室「なにわ歴史塾」にてこれら全てを閲覧することができましたが、小森さんが示された須恵器坏Bの図がなかなか見つかりませんでした。わたしの調査が不十分だったのかもしれませんが、『難波宮址の研究』(昭和36年大阪市教育委員会1961年)の図版に記された一つだけを見つけることができました。それは「実測図第十一 整地層下並竪穴内出土遺物実測図(Ⅱ)」の最下段にあり、「35」とナンバリングされた土器です。「Ⅱ層(難波宮整地層)出土」と説明されていますから、難波宮整地層から出土した須恵器坏Bと見て問題ありません。掲載された他の須恵器は坏HかGのようでした。念のため、同館学芸員の寺井誠さんに見ていただいたところ、須恵器坏Bで間違いなく、その形状からみて比較的古いタイプで、奈良時代までは下がらないとのことでした。
 この昭和36年の報告書に記された須恵器坏Bを見て、わたしはとても驚きました。従来の須恵器編年によればどう見ても7世紀後半に属する様式だったからです。そして、わたしはこの須恵器坏Bに似た土器をどこかで見たことがあることに気づきました。もしかすると、この土器は7世紀の遺構の編年に大きな見直しを迫るかもしれないと思ったのです。(つづく)


第1793話 2018/11/30

前期難波宮と大宰府政庁出土「須恵器坏B」(1)

 前期難波宮の造営を天武朝期とした研究者のお一人が小森俊寬さん(元・京都市埋蔵文化財研究所)でした。小森さんの著書『京(みやこ)から出土する土器の編年的研究 -日本律令的土器様式の成立と展開、7〜19世紀-』(京都編集工房、2005年11月)には、次の論法により前期難波宮を天武朝期の造営とされました。

①遺構から出土した最も新相の土器の編年をその遺構の時代とするのが考古学的原則である。
②前期難波宮整地層から天武朝期の須恵器坏Bが出土している。
③従って、前期難波宮造営は天武朝期である。

 このように簡単明瞭な論法により小森説は成り立っていますが、わたしの目から見ると、①の論が成立するためには、当該土器の発生時期を科学的学問的に証明しなければなりませんし、それ以前には存在しないという不存在の証明(悪魔の証明)も必要です。しかし、そのような証明などできないと思います。従って、小森さんの三段論法はその初めからして成立していないのです。
 他方、難波編年を提起された佐藤隆さん(大阪文化財研究所)は『難波宮址の研究 第十一 -前期難波宮内裏西方官衙地域の調査-』(2000年3月、大阪市文化財協会)において次のように結論づけられています。

 「難波Ⅲ中段階には前段階の土器様相がいっそう明らかになる。(中略)年代は前後の土器様相が新しい資料の増加によって明らかになってきており、7世紀中葉から動くことはない。前期難波宮の造営はまさにこの段階に行われたものであり、『日本書紀』の記載に基づいてこの時期に起こった最も重大な出来事と結びつければ、前期難波宮=難波長柄豊碕宮説がもっとも有力であることを今回あらためて確認することができた。」(264頁)

 わたしは佐藤さんの難波編年と前期難波宮孝徳期造営説を支持していますが、それでは小森さんの説は学問的に無意味かというと、そうではありません。小森さんが『京(みやこ)から出土する土器の編年的研究 -日本律令的土器様式の成立と展開、7〜19世紀-』で紹介された前期難波宮整地層の須恵器坏B出土が事実なら、それはそれで学問的に大きな意味を持つのではないかと考えられるからです。(つづく)


第1792話 2018/11/30

11月に配信した「洛中洛外日記【号外】」

 11月に配信した「洛中洛外日記【号外】」のタイトルをご紹介します。今月は新八王子セミナー(11/10-11)、「古田史学の会」関西例会(11/17)、『古代に真実を求めて』編集会議(11/18)などのため、土日の休みなしで働きづめの日々が続きました。そのためか〝親知らず〟がまた痛みだし、難儀しています。
 「洛中洛外日記【号外】」配信を希望される「古田史学の会」会員は担当(竹村順弘事務局次長 yorihiro.takemura@gmail.com)まで、会員番号を添えてメールでお申し込みください。
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《11月「洛中洛外日記【号外】」配信タイトル》
2018/11/14 桂米團治師匠還暦お祝いの招待状
2018/11/25 『古代に真実を求めて』22集の編集状況
2018/11/27 『東京古田会ニュース』183号のご紹介
2018/11/30 無形文化遺産「なまはげ」の古代史