2022年09月05日一覧

第2827話 2022/09/05

「夏商周断代行程」と水月湖の年縞

 1996年から始まった中国の国家プロジェクト「夏商周断代工程」は、古代中国王朝(夏・殷・周)の実年代を多分野(文献史学・考古学・天文学・暦学)の研究者による共同作業で確定するというもので、その報告書が2004年に発表、国家から承認されました。それまでは古代王朝の実年代は東周(周代の後半、春秋・戦国時代)までしかわからないとされていましたが、このプロジェクトにより周の建国年次(前1046年)まで明らかになったと発表当時は注目されました。
 この研究結果により、『論語』や周代の二倍年暦説は成立しないとの批判(注①)もあったのですが、わたしは「夏商周断代工程」の方法論に疑問を抱いていましたので、周代(特に西周)は二倍年暦でなければ史料事実を説明できないと考えていました。ですから、このプロジェクト結果は正しいのだろうかと疑っていましたし、今では〝間違っている〟と確信しています(注②)。その理由の一つがC14炭素年代測定値を根拠にしていることでした。
 同プロジェクトの経緯や概要と結論について著された岳南『夏王朝は幻ではなかった 一二〇〇年遡った中国文明史の起源』(注③)を読んで、最初に感じた疑問が、西周の王年の証明に使用された各遺跡出土物(人骨・木炭等)の炭素年代測定値幅が約20年~80年であり、紀元前11世紀から8世紀の炭素年代測定の精度がそこまで高いのだろうかということでした。もしその測定値と周の各王年が一致したのであれば、それは2000年頃の補正値(intCAL98か、1998年)が採用されているはずで、最新の補正値intCAL20(2020年)やその前の補正値intCAL13(2013年)など、数度にわたり補正値が変化しているので、最新補正値では王年との対応が崩れているのではないかと思ったからです。特にintCAL13は水月湖(福井県)の年縞(注④)により補正され、その精度が画期的に向上しています。(つづく)

(注)
①中村通敏「『論語』は『二倍年暦』で書かれていない 『託孤寄命章』に見る『一倍年暦』」『東京古田会ニュース』178号、2018年。
 同「『史記』の「穆王即位五〇年説」について」『東京古田会ニュース』194号、2020年。
 服部静尚「二倍年暦・二倍年齢の一考察」『古田史学会報』171号、2022年。
②古賀達也「周代の史料批判 ―「夏商周断代工程」の顛末―」『多元』171号、2022年。
③岳南『夏王朝は幻ではなかった 一二〇〇年遡った中国文明史の起源』柏書房、2005年。
④萩野秀公「若狭ちょい巡り紀行 年縞博物館と丹後王国」『古田史学会報』171号、2022年。