2022年09月11日一覧

第2833話 2022/09/11

「大寶二年籍」の史料事実と歴史事実

 「延喜二年籍」(702年)の次は、現存最古の戸籍「大寶二年籍」(702年)の研究に入りました。「大寶二年籍」(注①)は西海道戸籍と御野国戸籍が遺っており、わたしが注目したのが御野国戸籍の高齢者群でした。それは次の高齢者(70歳以上)です。

〔味蜂間郡春部里〕
「戸主姑和子賣」(70歳)

〔本簀郡栗栖太里〕
「戸主姑身賣」(72歳)

〔肩縣郡肩〃里〕
「寄人六人部身麻呂」(77歳)
「寄人十市部古賣」(70歳)
「寄人六人部羊」(77歳)
「奴伊福利」(77歳)

〔山方郡三井田里〕
「下々戸主與呂」(72歳)

〔加毛郡半布里〕
「戸主姑麻部細目賣」(82歳)
「戸主兄安閇」(70歳)
「大古賣秦人阿古須賣」(73歳)
「都野母若帯部母里賣」(93歳)※「大寶二年籍」中の最高齢記事。
「戸主母穂積部意閇賣」(72歳)
「戸主母秦人由良賣」(73歳)
「下々戸主身津」(71歳)
「下々戸主古都」(86歳)
「戸主兄多比」(73歳)
「下々戸主津彌」(85歳)
「下中戸主多麻」(80歳)
「下々戸主母呂」(73歳)
「寄人石部古理賣」(73歳)
「下々戸主山」(73歳)
「寄人秦人若賣」(70歳)
「下々戸主身津」(77歳)
「戸主母各牟勝田彌賣」(82歳)

 わたしはこれらの高齢者の年齢は二倍年暦による計算結果(二倍年齢)ではないかと疑いましたが、従来の古代戸籍研究ではこの〝史料事実〟を無批判に〝歴史事実〟として採用してきたようです。しかし、古代における二倍年暦と二倍年齢の研究を続けてきたわたしは、「大寶二年籍」、なかでも同「御野国戸籍」の高齢者群の存在という〝史料事実〟をそのまま〝歴史事実〟とすることは学問的に危険と指摘しました(注②)。しかも、高齢者群以外にも「大寶二年籍」には不自然な史料状況がありました。(つづく)

(注)
①「大寶二年籍」『寧楽遺文(上)』竹内理三編、1962年。
②古賀達也「洛中洛外日記」2193話(2020/08/03)〝「大宝二年籍」断簡の史料批判(17)〟
 同「古代戸籍に見える二倍年暦の影響 ―「延喜二年籍」「大宝二年籍」の史料批判―」『古田武彦記念古代史セミナー2020 予稿集』大学セミナーハウス、2020年。当拙論で次のように指摘した。
 「文献史学における基本作業としての史料批判が古代戸籍にも不可欠なのである。すなわち、どの程度真実が記されているのか、どの程度信頼してよいのかという基本調査(史料批判)が必要だ。ある古代戸籍に長寿者が記録されているという史料事実を無批判に採用して、その時代の寿命の根拠(実証)とすることは学問的手続きを踏んでおらず、その結論は学問的に危ういものとなるからである。」
https://iush.jp/uploads/files/20201126153614.pdf