2023年09月27日一覧

第3124話 2023/09/27

TV番組「パリピ孔明」に想う

 今日から始まったフジテレビの番組「パリピ孔明」(注①)を見ました。五丈原の戦いで没した諸葛亮孔明(向井理さん)が現代日本に現れ、上白石萌歌さん演じる無名の歌手・月見映子を権謀術策でスターにしていくというドラマのようです。その中で三国志の名場面や名言が効果的に用いられ、ついつい最後まで見てしまいました。

 わたしが注目したのは、「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」で有名な馬謖の話が主人公らの会話に登場したことでした。これは三国志の中でも印象的なシーンの一つで、軍事行動(街亭の戦)のさい、孔明の作戦に従わず、自軍を敗戦に導いた罪により、孔明が愛する部下、馬謖を処刑したという話です。この経緯を古田先生が『邪馬一国の道標』(注②)で解説し、馬謖が死に臨んで、孔明に送ったと伝えられている手紙を紹介されました。

「あなたは、わたしを自分の子供のように可愛がってくれ、わたしもあなたを父のように慕ってきた。だから、わたしは、今回処刑されてあの世へ行っても恨むところはない」(襄陽記)

 ちなみに、『三国志』の著者陳寿の父は、馬謖の参謀(参軍)だったとのことです。陳寿にとって、孔明は郷土・蜀の英雄であり、『三国志』に「諸葛亮伝」を設けています。しかし、孔明への評価は、「諸葛亮の相国たるや…(略)…識治の良才と謂う可し。管・蕭(注③)の亞匹(あひつ)なり。然るに連年衆を動かして未だ成功する能わず。蓋(けだ)し応変の将略、其の長とするに非ざるか。」とあり、その人柄や見識を絶賛すると同時に、〝長年にわたって出兵し、魏軍と戦いながら勝てなかったのは、臨機応変の才能に長けていないからだ〟と手厳しい言葉で締めくくっています。

 古田先生によれば、諸葛孔明は馬謖亡き後、人材が乏しい蜀にあって、自らが元気なうちに魏と雌雄を決するのか、それとも和平に向かうのかを決断できなかったとのことです。そうであれば、一度の失敗で有能な馬謖を断罪したことこそ、孔明の大きな判断ミスだったのではないでしょうか。それに比べて、魏の曹操は、戦いに負けた将軍を〝勝敗は時の運〟と許しています。このリーダーシップの差が、魏と蜀の命運を分けたようにも思います。

 「パリピ孔明」を見ながら、このときの古田先生との会話を思い出しました。ちなみに、『邪馬一国の道標』はわたしが最も好きな先生の著作の一つです。

(注)
①原作は四葉タト。小川亮により漫画化され、『コミックDAYS』に連載後、現在は『週刊ヤングマガジン』(講談社)で連載中。
②古田武彦『邪馬一国の道標』講談社、1978年。ミネルヴァ書房から復刊。
③中国史上名宰相と言われた管仲と蕭何のこと。