斎藤努著『金属が語る日本史』を読む
今朝は東京に向かう新幹線の車中で書いています。明朝、霞ヶ関の経済産業省に用事があるため、今日から東京に入ります。
最近読み始めたのが斎藤努著『金属が語る日本史』(吉川弘文館、2012年11月刊)という本ですが、古代貨幣や日本刀・鉄砲の歴史を自然科学的分析から考察されており、論理的で読みやすい本です。もちろん、その自然科学的分析結果の評価は近畿天皇家一元史観に基づいていますから、多元史観・九州王朝説の視点から見ると、不十分であることは避けられません。しかしそれでも参考になる一冊でした。
25年ほど昔、わたしが古田先生の著作に感銘を受けて、稚拙ながらも古代史研究を開始したとき、その主たるテーマは「九州年号」と「古代貨幣」でした。 その内、九州年号については昨年末に『「九州年号」の研究』をミネルヴァ書房より上梓でき、一区切りついたのですが、「古代貨幣」研究については、まだまだ研究成果をまとめられる域に達していません。
1999年に古田先生らと「貨幣研究」プロジェクトチームを立ち上げ、飛鳥池遺跡から出土して話題となっていた冨本銭や和同開珎などを取り上げました。 その参加者各人の報告が『古代に真実を求めて』第3集に収録されていますのでご参照ください。プロジェクトでは主に文献史学の立場からの報告が多く、いわゆる「合意形成」や「結論」が出されたわけではありませんが、多元史観によって古代貨幣を含む貨幣史に迫ろうとする野心的な取り組みでした。
メンバーは古田先生・木村由紀雄さん・浅野雄二さん・山崎仁礼男さんと古賀の五名で、各人の報告は「古田史学会報」や友好団体の会紙に掲載されました。 さらに古田先生からは報告以外にも膨大な先行論文のコピーが提供され、いまでも貴重な資料として大切に保管・利用しています。
プロジェクト終了後もわたしは古代貨幣に強い関心を持ち続けていましたが、古代貨幣研究は文献史学にとどまらず、考古学・自然科学(材質分析・金属工学)・貨幣経済史などを網羅したテーマですので、浅学なわたしには骨の折れる課題でした。そんなときに斎藤努著『金属が語る日本史』が書店で目に留まり読み始めたのですが、おかげで古代貨幣に関する新知見を得ることができ、わたしの研究心が再び沸き起こったのです。
著者の斎藤さんは東京大学大学院で化学を専攻され、現在は国立歴史民俗博物館研究部教授と紹介されています。わたしも化学を専攻しましたが、有機合成化学だったので無機化学や金属についてはあまり詳しくありませんから、同書の解説は大変勉強になりました。現在、同書で紹介された古代貨幣の材質分析結果を、九州王朝説の視点から読み説こうとしています。洛中洛外日記で少しずつ紹介していきたいと思います。
今、新幹線は駿河湾付近を走行中ですが、座席がA席(海側)なので、富士山は見ることができません。せっかくの晴天なのに残念です。(つづく)