第3276話 2024/04/24

「天皇」地名と天子宮の分布比較

 「天皇」地名が愛媛県東部に濃密分布していることについて、古代越智氏が九州王朝(倭国)の天子から、臣下としての「天皇」号を称することを許されたことが歴史的背景にあったためとする、多元的「天皇」併存説をわたしは発表しました。古田旧説によれば、九州王朝のナンバーワン天子の下のナンバーツー天皇を近畿天皇家は名乗っていたと考えられているのに対して、多元的「天皇」併存説は、臣下としての天皇を名乗った複数の有力氏族があったとする仮説です。
その痕跡として、愛媛県を筆頭として四国地方に「天皇」地名が濃密分布することを紹介しました(注①)。次の通りです。

【国内の「天皇」地名】
※〔未確認〕とあるものは、web上の地図では確認できなかったもので、存在しないということでは無い。
《四国以外》
宮城県仙台市泉区実沢細椚天皇 ※当地に須賀神社がある。
宮城県仙台市泉区野村天皇  ※当地に須賀神社がある。
福島県喜多方市塩川町小府根午頭天皇 ※当地に牛頭天皇神社がある。
愛知県安城市古井町天皇
京都府綴喜郡宇治田原町荒木天皇 ※当地に大宮神社がある。
《四国》
徳島県美馬郡つるぎ町半田天皇 ※近隣に式内建神社がある。
香川県高松市林町天皇
香川県仲多度郡まんのう町四條天皇
愛媛県西条市福武甲天皇 ※当地に天皇神社(スサノオと崇徳上皇を祭神とする)がある。崇徳上皇来訪伝承があり、それにより「天皇」地名が付けられたとされているようである。
愛媛県西条市明理川(天皇) ※〔未確認〕
愛媛県西条市丹原町長野天皇 ※近隣に無量寺がある。
愛媛県今治市朝倉天皇
高知県高知市春野町弘岡上天皇 ※当地に天皇神社がある。
高知県香南市香我美町徳王子天皇 ※〔未確認〕
高知県香南市夜須町国光天皇

 以上の「天皇」地名が見つかりましたが、他方、九州と北海道には「天皇」地名がないとする文献もあります(注②)。北海道はともかく、九州にないことを不思議に思っていました。しかし、よくよく考えてみると、九州王朝の臣下としての多元的「天皇」併存説であれば、九州王朝の天子の直轄支配領域である九州に、「天皇」地名がないのは当然であることに気づきました。あるとすれば、それは「天皇」ではなく、「天子」地名ではないでしょうか。そうであれば、「天子宮(てんしぐう)」が熊本県北部を中心に分布していることが注目されます。管見では次の通りです。

○天子宮 熊本県菊池郡大津町森223
○天子宮 熊本県葦北郡芦北町大字小田浦752-1
○平国天子宮 熊本県葦北郡津奈木町平国
○天子宮 熊本県葦北郡芦北町乙千屋574
○小天(こあま)天子宮 熊本県玉名市天水町小天1170
○天子宮 熊本県玉名郡玉東町大字山口
○天子宮 熊本県玉名市玉東町木葉

 他方、佐賀県には「天子社」の分布が見られます(別途、紹介します)。これらは九州王朝の天子(阿毎多利思北孤か)に淵源するのではないかと想像していますが(注③)、残念ながら未だ決定的なエビデンスの発見や論証には至っていません。しかしながらこれらの特徴的な分布事実は、九州王朝の「天子」とその臣下としての多元的「天皇」併存説に整合するように思いますので、引き続き検討します。

(注)
①古賀達也「洛中洛外日記」3126話(2023/09/29)〝全国の「天皇」地名〟
②鏡味完二・鏡味明克『地名の語源』角川書店、昭和52年。
③古賀達也「洛中洛外日記」136話(2007/08/12)〝天子宮〟

フォローする