「 古田史学の会 」一覧

第1976話 2019/08/30

『多元』No.153のご紹介

 友好団体の「多元的古代研究会」の会紙『多元』No.153が届きました。同号には拙稿「難波から出土した筑紫の土器 -文献史学と考古学の整合-」を掲載していただきました。同稿において、前期難波宮九州王朝複都説に対して、当地から九州との関係を示すものは出土していないという批判への反論として、上町台地から出土した北部九州の須恵器などを紹介しました。末尾には次の一文を加えました。

【以下、転載】
《補記2》「副都」と「複都」
 本稿では前期難波宮を「九州王朝複都」と表記しましたが、当初わたしは「九州王朝副都」と理解していました。その後、複数の研究者からのご意見もいただき、「副都(secondary capital city)」とするよりも、「複都(multi-capital city)」(太宰府倭京と難波京の両京制:dual capital system)とするのが妥当との理解に至りました。
【転載おわり】

 服部静尚さん(『古代に真実を求めて』編集長)の論稿「二つの古田説 天皇称号のはじめ」も掲載されており、近畿天皇家の天皇称号の始まりを7世紀初頭からとする古田旧説と「船王後墓誌」に見える「天皇」を九州王朝の天子の別称とする古田新説を紹介され、古田旧説を支持する古賀論稿への批判を展開されました。当テーマは「古田史学の会」関西例会でも続けられている論争テーマでもあり、興味深く拝読しました。わたしは、〝学問は批判を歓迎し、真摯な論争は研究を深化させる〟と考えていますので、服部さんからのハイレベルな批判は大歓迎です。重要かつ難しいテーマですので、時間をかけて検討していきたいと考えています。
 この他に内倉武久さん(富田林市)の「継体紀のなぞと福岡・巨大前方後円墳」では、福岡県田川郡赤村で「発見」された「巨大前方後円墳」を「ほぼ間違いなく安閑天皇の陵墓」と紹介されていました。同テーマについては「洛中洛外日記【号外】」で触れたことがありますので、ご参考までに転載します。

【以下、転載】
古賀達也の洛中洛外日記【号外】
2018/07/21
『九州倭国通信』No.191のご紹介
 (前略)
 同紙には松中祐二さんの秀逸の論稿「『赤村古墳』を検証する」が掲載されていました。本年三月、西日本新聞で報道された「卑弥呼の墓」「巨大前方後円墳」発見かとされたニュースに対して、松中さんは現地(福岡県田川郡赤村)調査や国土地理院の地形データを丹念に検証され、結論として前方後円墳とは認め難く、自然丘陵であるとの合理的な結論を導き出されました。
 松中さんは北九州市で医師をされており、古くからの古田ファンです。その研究スタイルは理系らしく、エビデンスに基づかれた論理的で合理的なもので、以前から注目されていた研究者のお一人です。今回の論稿でも国土地理院の等高線からその地形が前方後円墳の形状をなしておらず、上空からみたときの道路が「前方後円」形状となっているに過ぎないことを見事に説明されました。
 当地の自治体の文化財担当者の見解も、新聞報道によれば「丘陵を『自然地形』として、前方後円墳の見方を否定している」とのことで、そもそもこの丘陵を前方後円墳とか卑弥呼の墓とか言っている時点で“まゆつばもの”だったようです。松中さんは論稿を次の言葉で締めくくっておられますが、深く同意できるところです。
 「なお、赤村丘陵の後円部だけを取り出し、『卑弥呼の墓』だとする意見もあるようだが、本会会員にとっては、この説は長里に基づく謬説である、という見解に異論はないところであろう。」


第1967話 2019/08/18

古代史と化学の話で盛り上がる

 昨日、「古田史学の会」関西例会が福島区民センターで開催されました。9月はI-siteなんば、10月、11月はアネックスパル法円坂(大阪市教育会館)で開催します。
 今回の例会では『隋書』イ妥国伝に関する報告が二件(野田さん、岡下さん)なされました。満田さんは、復元が困難とされている百済史研究について、『日本書紀』百済記事と『三国史記』との比較という方法で挑戦されました。
 わたしが注目したのは、原さん(古代大和史研究会・代表)が紹介された『筑前国那珂郡住吉神社縁起』です。それには、イザナミやイザナギなどが活躍した日向は筑紫(福岡県)のことで、日向国(宮崎県)ではないとする社伝が記されていました。わたしの記憶では『雷山千如寺縁起』にも同様の伝承が記されています。筑前ではそのような伝承が各地の寺社縁起に残されているようです。
 例会には九州大学で物理を研究されていた佐々木さん(古田史学の会・新会員)が初参加されました。懇親会にも参加され、夜遅くまで歓談しました。佐々木さんはケミストということで、古代史の他にも、最近発表された東大の研究グループによるモリブデン触媒とサマリウム薬剤(還元剤)を使用したアンモニアの常温常圧合成法の開発についても意見交換しました。ついにハーバー・ボッシュ法(400℃以上、約300気圧)に替わるアンモニア合成の工業化が可能になるということで、わたしは感激していたのですが、佐々木さんは「遅すぎる。今まで化学者は何をしていたのだ」とのこと。確かに100年もかかっていますから、それだけハーバー・ボッシュ法は素晴らしかったということになりそうです。
 ちなみに、ドイツ人のハーバーとボッシュによるこのアンモニア合成の成功には日本人技術者の貢献がありました。学生時代、こうした化学史の話に胸を躍らせた記憶がよみがえりました。
 今回の例会発表は次の通りでした。なお、発表者はレジュメを40部作成されるようお願いします。発表希望者も増えていますので、早めに西村秀己さんにメール(携帯電話アドレス)か電話で発表申請を行ってください。

〔8月度関西例会の内容〕
①論証による事実(明石市・不二井伸平)
②三国史記と日本書紀の百済関連記事との違いに関する考察(茨木市・満田正賢)
③小戸域民が知る「石井の乱」(大阪市・西井健一郎)
④『隋書』イ妥国伝を考える(京都市・岡下英夫)
⑤イ妥国と倭国は同一の存在である -千歳氏の論文の紹介-(姫路市・野田利郎)
⑥薬師経受容経緯から法隆寺薬師像後背銘の偽作を論ず(八尾市・服部静尚)
⑦「倭姫命世紀」についてⅢ(東大阪市・萩野秀公)
⑧日向から近畿を目指したのは誰か(奈良市・原 幸子)
⑨「磐井の乱」は虚構だった(川西市・正木 裕)

○事務局長報告(川西市・正木 裕)
《会務報告》
◆新入会員情報(神戸市・函館市・高槻市から入会)。

◆9/16(月・祝) 13:30〜17:00『倭国古伝-姫と英雄と神々の古代史』出版記念東京講演会(文京区民センター・会議室2A。参加費1000円)
 ①講演「筑紫の姫たちと対馬の法師〜九州王朝史復元の方法」(講師:古賀達也)。
 ②パネルディスカッション「徹底討議〜古伝承と九州王朝」(パネラー:正木 裕さん、橘高 修さん、井上 肇さん。司会:服部静尚さん)。

◆10/26(土) 13:30〜15:30 「古田史学の会・八尾」講演会 会場:八尾市文化会館プリズムホール(近鉄八尾駅から徒歩5分)
 ①「九州王朝説とは」②「恩智と玉祖-河内に所領をもらった神様」講師:服部静尚さん。

◆「古田史学の会」関西例会(第三土曜日開催)
 9/21 10:00〜17:00 会場:I-siteなんば
10/19 10:00〜17:00 会場:アネックスパル法円坂(大阪市教育会館)
11/16 10:00〜17:00 会場:アネックスパル法円坂(大阪市教育会館)
12/21 10:00〜17:00 会場:I-siteなんば

◆8/18 『古代に真実を求めて』編集会議 福島区民センターにて。

◆10/14 久留米大学で『倭国古伝』出版記念講演会を企画中。

◆11/09〜10 「古田武彦記念古代史セミナー2019」の案内。主催:公益財団法人大学セミナーハウス。共催:多元的古代研究会、東京古田会、古田史学の会。

《各講演会・研究会のご案内》
◆「誰も知らなかった古代史」(会場:アネックスパル法円坂。正木 裕さん主宰)
 8/23 18:45〜20:15 「古墳・城等歴史資産を地域活性化に生かす」 講師:正木 裕さん。
 9/27 18:45〜20:15 「中国正史の東夷伝と短里-漢書から梁書まで」講師:谷本 茂さん(古田史学の会・会員)。

◆「古代大和史研究会」講演会(原 幸子代表。会場:奈良県立情報図書館。参加費500円)
 9/03 10:00〜12:00 「失われた古代年号〜聖徳太子の生涯は『九州年号』で記されていた」講師:正木 裕さん。
 10/01 10:00〜12:00 「万葉集①〜白村江の戦い・開戦前夜」講師:正木 裕さん。
 11/05 10:00〜17:00 「万葉集②〜白村江の戦い」講師:正木 裕さん。    ※会場:奈良新聞本社西館(奈良市法華寺町2番地4)

◆「和泉史談会」講演会(辻野安彦会長。会場:和泉市コミュニティーセンター。参加費500円)
 9/10 14:00〜16:00 ①「日本古代史報道の問題とマスコミの体質」講師:茂山憲史さん(古田史学の会・会員)。②「徹底解説-邪馬「台」国九州説(2)」講師:正木裕さん。

◆「市民古代史の会・京都」講演会(事務局:服部静尚さん・久冨直子さん)。毎月第三火曜日(会場:キャンパスプラザ京都。参加費500円)。
9/17 18:45〜20:15 「徹底解説-邪馬「台」国九州説(2)」講師:正木 裕さん。

◆水曜研究会(豊中倶楽部自治会館)
 8/21 13:00〜

◆邪馬壹(やまと)国阿波説の紹介


第1962話 2019/08/13

『古田史学会報』153号のご案内

 『古田史学会報』153号が発行されました。一面には関西例会で発表された谷本さんの論稿が掲載されました。誉田山古墳を応神天皇陵とすることへの批判で、その方法論や史料根拠に疑義を呈されました。古田学派の重鎮らしく、説得力のある論稿でした。
 日野さんは会報初登場です。奈良大学で国史を専攻されているだけあって、その理詰めの推論展開や文章力は流石です。論稿では河内の巨大古墳の造営者をどの勢力とするのかについて、古田学派内の研究動向を踏まえた上で、論点整理をされました。古田学派の将来を担う期待の青年です。
 わたしからは、大阪歴博の考古学者たちの、考古学的出土事実に基づき、『日本書紀』の記事を絶対視しないという研究姿勢を紹介し、「ついに日本の考古学界に〝『日本書紀』の記事を絶対視しない〟と公言する考古学者が現れた」と評価しました。
 153号に掲載された論稿は次の通りです。この他にも優れた投稿がありましたが、次号以降での掲載となりますので、ご了解下さい。また、投稿される方は字数制限(400字詰め原稿用紙15枚程度)に配慮され、テーマを絞り込んだ簡潔な原稿とされるようお願いします。

『古田史学会報』153号の内容
○誉田山古墳の史料批判 神戸市 谷本 茂
○-河内巨大古墳造営者の論点整理-
 倭国時代の近畿天皇家の地位を巡って たつの市 日野智貴
○『日本書紀』への挑戦〈大阪歴博編〉 京都市 古賀達也
○「壹」から始める古田史学・十九
 「磐井の乱」とは何か(3) 古田史学の会事務局長 正木 裕
○古田史学の会 第25回会員総会の報告
○古田史学の会 2018年度会計報告
○『古代に真実を求めて』バックナンバー 廉価販売のお知らせ
○各種講演会のお知らせ
○『古田史学会報』原稿募集
○古田史学の会・関西 史跡めぐりハイキング
○古田史学の会・関西例会のご案内
○『古代に真実を求めて』第23集 原稿募集
○「古田史学の会」会員募集
○割付担当の穴埋めヨタ話 玉依姫・考 高松市 西村秀己
○編集後記 西村秀己


第1959話 2019/08/08

「古田史学の会」の運動論と進化

 このところ「洛中洛外日記」では理屈っぽいテーマが続きましたので、ここらで息抜きも兼ねて「古田史学の会」の運動論と進化について、個人的感想を披露させていただきます。会員や読者の皆さんのご意見などいただければ幸いです。
 「古田史学の会」は歴史の真実を求めるという学術研究団体という側面と、一元史観が跋扈する日本社会に古田史学を広めていくという社会運動団体という異なる性格を併せ持っています。学問研究が本質的に持つ、確かなエビデンスに基づき、人間の理性に依拠したロジックを展開し、仮説の優劣を検証し、歴史の真実を極めるという方法はこれからも大きく変化することはないと思うのですが、社会運動という側面では時代の変化とともにその組織や運動形態は変わらざるを得ません。
 わたしの本職は化学メーカーでの製品開発とマーケティングなのですが、そこでのマーケティング理論や方法論は「古田史学の会」の運営にも役立つことが多々あります。しかし、社会や科学の進歩がますます速くなり、マーケティング論やその概念は大きく進化しています。とりわけ、近年の〝デジタル化革命〟と呼ばれる社会やビジネスモデルの進化はすさまじいものです。変化を加速させる最も基本的な要素はデジタル化とされ、ピーター・ディアマンディス氏(米国の起業家)によれば、デジタル化の流れは次の「6つのD」で表されるとのことです。

1.デジタル化(Digitalization)
 情報・知識の複製・共有が加速する。
2.潜行(Deception)
 最初は目に見えず、途中から急加速する。
3.破壊(Disruption)
 既存の市場を破壊する。
4.非収益化(Demonetization)
 有料で提供されていたものが無料になる。
5.非物質化(Dematerialization)
 モノが消える。
6.大衆化(Democratization)
 だれでも手に入るようになる。

 これを「古田史学の会」の運動に当てはめれば、次のようになりそうです。

1.デジタル化(Digitalization)
 古代史研究に必要な史料や報告書・論文がネットで閲覧でき、共有化できる。
2.潜行(Deception)
 ネット上では通説の一元史観に代わり、多元史観がじわじわと多数派を占めつつあり、あるときを境に急速に多数派を形成する(それがいつかはまだわかりませんが)。
3.破壊(Disruption)
 既存アカデミーの一元史観が批判にさらされ、学問的影響力を失う。
4.非収益化(Demonetization)
 『古田史学会報』が数年遅れとはいえHPに掲載され、誰でも無料で読める。「古田史学の会」の動向や研究情報もHP上の「洛中洛外日記」やFACEBOOKなどからリアルタイムで無償で得られる。
5.非物質化(Dematerialization)
 会誌や書籍がデジタル化され、スマホやパソコンに収納される。例会活動がソーシャルネットワーク上で行われる(バーチャル例会)。
6.大衆化(Democratization)
 上記変化の集大成の結果、古代史研究の参入障壁が更に低くなり、アマチュア研究者がプロの学者と対等に渡り合う。

 このように「古田史学の会」はデジタル化の波に乗り、「6つのD」を具現化しつつあります。


第1950話 2019/07/27

『古田史学会報』採用審査の困難さと対策(5)

 投稿論文審査で困難な作業に、異分野や一元史観での既存研究の確認があります。古田史学関係の研究であれば、これまでの経験により、何とか新規性の確認はできるのですが、一元史観の最先端研究動向の把握はとても困難です。プロの学者なら同業者の研究動向の調査は仕事の一環として日常的にできるでしょう。わたしの場合も本業の化学分野における調査などは勤務時間中に仕事として行えますし、特許担当部署からは定期的に関連特許の最新リストが提供されてもきます。しかし、一元史観の古代史論文・著書や各大学・研究機関が発行する紀要などはその一部にたまに図書館で目を通すくらいで、『古田史学会報』の論文審査のためにそれらを毎日のように読むと言うことは時間的に不可能です。
 しかし、投稿原稿に一元史観の学説との対比などが記されている場合は、その一元史観の論文が最新学説なのか、最有力学説かなどはわたしには判断できません。一元史観での古い研究が、同じ一元史観の新研究により既に否定されているケースもありますので、投稿論文中に引用され、それを批判していても、その批判に新規性があるのかどうかの調査は必要となります。そのため、わたしが勉強していない分野や、一元史観の最新研究動向が不明な場合は、その分野に詳しい会員や知人に教えていただくこともあります。このような課題も残されていますので、将来的には大学で国史(一元史観)を専攻した古田学派の若者に『古田史学会報』編集部に加わっていただきたいと願っています。(つづく)


第1949話 2019/07/27

『古田史学会報』採用審査の困難さと対策(4)

 1931話で触れた「選択発明」について少し説明しておきます。その定義は次のようなものです。わたしの専門の化学関連文献から引用紹介します。特許法に詳しくない方にはちょっと難解かもしれませんが、読み飛ばしていただいてもかまいません。

【選択発明の解説】
 選択発明とは、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明で、刊行物において上位概念表現された発明又は事実上若しくは形式上の選択肢で表現された発明から、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明又は当該選択肢の一部の発明を特定するための事項として仮定したときの発明を選択したものであって、前者の発明により新規性が否定されない発明をいいます。(中略)
 請求項に係わる発明の引用発明と比較した効果が以下の(ⅰ)から(ⅲ)までの全てを満たす場合は、審査官は、その選択発明が進歩性を有しているものと判断します。
 (ⅰ)その効果が刊行物等に記載又は掲載されていない有利なものであること。
 (ⅱ)その効果が刊行物等において上位概念又は選択肢で表現された発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際立って優れたものであること。
 (ⅲ)その効果が出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないこと。(後略)
 ※出典:福島芳隆「特許庁・審査官」『近畿化学工業界』(2019.07)

 特許の専門用語を用いた説明ですので、わかりやすいようにわたしの過去の論稿を用いて具体的に解説します。
 「洛中洛外日記」1923話〜1928話で連載した「法円坂巨大倉庫群の論理」で、わたしは南秀雄さん(大阪市文化財協会・事務局長)による「日本列島における五〜七世紀の都市化 -大阪上町台地・博多湾岸・奈良盆地」の講演内容を紹介し、その中の重要な4点に着目し、それらがわたしの前期難波宮九州王朝複都説を結果として支持していると指摘しました。その論稿においてわたしが提示した論理構造は次のようなものでした。

(a) 上町台地北端に古墳時代で日本最大の法円坂倉庫群が造営される。他地域の倉庫群(屯倉)とはレベルが異なる卓越した規模である。
(b) 古墳時代の上町台地北端と比恵・那珂遺跡は、内政・外交・開発・兵站拠点などの諸機能を配した内部構造がよく似ており、その国家レベルの体制整備は同じ考えの設計者によるかの如くである。
(c) 法円坂倉庫群はその規模から王権の倉庫と考えられるが、それに相応しい王権の中枢遺跡は奈良にはなく、大阪城の地にあった可能性がある(確認はされていない)。
(d) 上町台地北端部からは筑紫の須恵器が出土しており、両者の交流や関係を裏付ける。
(e) 652年には国内最大規模の前期難波宮が造営され、難波京へと発展する。この七世紀中頃は全国に評制が施行された時代で、「難波朝廷、天下立評」と史料(『皇太神宮儀式帳』)にあるように前期難波宮にいた権力者によるものである。
(f) 九州王朝説に立つならばこの権力者は九州王朝(倭国)と考えざるを得ない。
(g) 以上の考古学的事実とそれに基づく論理展開は、前期難波宮九州王朝複都説を支持する。

 上記の内、(a)〜(d)の部分は南さんの講演要旨で、既知の考古学的事実やそれに基づく解釈であり、新規性はありません。また、(e)は文献史学に基づく前期難波宮に対する通説の解釈であり、これも新規性はありません。(f)が九州王朝説に基づく前期難波宮に対するわたしの解釈で、この部分でようやく新規性が発生します。そして(g)の結論へと続きます。この(f)と(g)が選択発明に必要とされる「効果」に相当します。その「効果」は(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)の用件全てを満たしており、その結果、「その選択発明が進歩性を有しているものと判断」されることになります。すなわち、この「選択発明」には「引用発明と比較した効果」が認められるのです。
 この「引用発明」とは一元史観による考古学的事実への解釈のことであり、それに比べて多元史観・九州王朝説による解釈には新規性があり、際立った仮説であり、一元史観からは予測できない仮説であると認められるのです。なお、この新解釈(前期難波宮九州王朝複都説)が正しいか否かは、新規性・進歩性の有無の判断とは一応別です。『古田史学会報』の投稿採否審査でも同様で、その仮説の新規性と進歩性をまず審査しますが、この段階では仮説や結論の是非、ましてや審査する編集部員の見解と一致しているか否かは全く審査基準とはされません。(つづく)


第1945話 2019/07/20

古田史学の会・関西2019年 8月例会

期日

2019年 8月17日(土)
午前10時より午後5時まで

場所

福島区民センター
会議室は案内で確認願います

交通アクセスはここから

住所:〒553-0006
大阪府大阪市福島区吉野3丁目17−23

・地下鉄/千日前線「野田阪神駅」下車、7番出口上がる
・阪神電車/「野田駅」下車、改札左手を出る。西へ200m 
・JR/環状線「野田駅」下車、徒歩8分
・東西線「海老江駅」下車、徒歩5分
・バス/市バス大阪駅より幹59酉島行「福島区役所前」下車

報告

会員発表例は例会報告参照

参加費 500円

9月例会は、21日(土)I-siteなんばでおこないます。
関西例会は、毎月第三土曜日午前10時より午後5時までです。


服部さんとの論争「7世紀の天皇称号」

 本日、「古田史学の会」関西例会がアネックスパル法円坂(大阪市教育会館)で開催されました。8月は福島区民センター、9月はI-siteなんばで開催します。
 今回は古田説に対しての異見の発表が谷本さんや満田さんからあり、賛否は別としても、どちらも学問的に重要な論点が提起されたものでした。『古田史学会報』への投稿が待たれます。
 また服部さんからの天皇称号についての報告も古田学派にとって貴重なものでした。それは7世紀の金石文(法隆寺薬師如来光背銘、船王後墓誌など)に見える「天皇」を近畿天皇家のものとするのか、九州王朝の天子の別称とするのかというテーマです。このテーマは古田旧説(ナンバーツーとしての近畿天皇家の称号「天皇」)と古田新説(九州王朝の天子の別称「天皇」)との対立でもあります。古田新説を支持する服部さんと、古田旧説を支持するわたしとで一年近く続けられている論争で、今回の関西例会でも激しく意見が対立しました。
 しかし、誤解のないように言っておきますと、わたしは服部さんの見解や論理性は有力であると考えています(だから論争しています)。更に新旧の古田説の帰趨は、王朝交替以前の7世紀の近畿天皇家の実勢や政治形態がどのような段階にあったのかにも影響します。ここを正確に把握しておかないと、701年の王朝交替の実態を見誤ることが避けられないからです。そのため、服部さんの研究や論争は古田学派としての最重要テーマの一つと考えています。学問は批判を歓迎し、真摯な論争は研究を深化発展させるからです。このテーマでも『古田史学会報』への投稿が待たれます。
 今回の例会発表は次の通りでした。なお、発表者はレジュメを40部作成されるようお願いします。発表希望者も増えていますので、早めに西村秀己さんにメール(携帯電話アドレス)か電話で発表申請を行ってください。

〔7月度関西例会の内容〕
①奇跡の12年 古田先生が語る「学問の方法」と「学問の未来」(明石市・不二井伸平)
②鳥居前古墳の伝世鏡(京都府大山崎町・大原重雄)
③百舌鳥・古市古墳群世界遺産登録を祝して二題(京都府大山崎町・大原重雄)
④常立神は旧近畿の祖神(大阪市・西井健一郎)
⑤「倭(ヰ)」と「イ妥(タイ)」(神戸市・谷本 茂)
⑥二つの古田説 天皇称号のはじめ(八尾市・服部静尚)
⑦持統の吉野行幸について(茨木市・満田正賢)
⑧「倭姫世記(紀)」についてⅡ(東大阪市・萩野秀公)
⑨「裂田の溝(さくたのうなで)」と俾弥呼・壹予の王都(川西市・正木 裕)

○事務局長報告(川西市・正木 裕)
《会務報告》
◆新入会員情報
◆6/16 16:00〜17:00 「古田史学の会」会員総会の報告。
 編集部体制の強化。
◆6/16 13:00〜16:00 古代史講演会の報告(共催:古代大和史研究会、市民古代史の会・京都、和泉史談会、古田史学の会)。
 ①「日本列島における五〜七世紀の都市化」 講師:南秀雄さん(大阪文化財研究所長)。
 ②「姫たちの古伝承」 講師:正木裕さん(古田史学の会・事務局長)。
◆『倭国古伝』売れ行き好調。
◆『失われた倭国年号 大和朝廷以前』増刷。拡販協力要請。
◆『古代に真実を求めて』バックナンバー廉価販売が好調。12集完売。

◆「古田史学の会」関西例会(第三土曜日開催)
 8/17 10:00〜17:00 会場:福島区民センター
 9/21 10:00〜17:00 会場:I-siteなんば
10/19 10:00〜17:00 会場:アネックスパル法円坂(大阪市教育会館)
11/16 10:00〜17:00 会場:アネックスパル法円坂(大阪市教育会館)
12/21 10:00〜17:00 会場:I-siteなんば

◆8/18 『古代に真実を求めて』編集会議 福島区民センターにて。

◆9/16 『倭国古伝』出版記念東京講演会 文京区民センターにて。
 講演(講師:古賀達也)とパネルディスカッション(パネラー:正木裕さん、橘高修さん、井上肇さん)。

◆10/14 久留米大学での『倭国古伝』出版記念講演会を企画中。

◆11/09〜10 「古田武彦記念古代史セミナー2019」の案内。主催:公益財団法人大学セミナーハウス。共催:多元的古代研究会、東京古田会、古田史学の会。

《各講演会・研究会のご案内》
◆「誰も知らなかった古代史」(会場:アネックスパル法円坂。正木 裕さん主宰)
 7/26 18:45〜20:15 「飛鳥の謎」 講師:服部静尚さん(『古代に真実を求めて』編集長)。
 8/23 18:45〜20:15 「古墳・城等歴史資産を地域活性化に生かす」 講師:正木裕さん。

◆「古代大和史研究会」講演会(原幸子代表。会場:奈良県立情報図書館。参加費500円)
 8/06 13:30〜17:00 「磐井の乱の真実」 講師:正木 裕さん。

◆「和泉史談会」講演会(辻野安彦会長。会場:和泉市コミュニティーセンター。参加費500円)
 ☆8月はお休み。

◆「市民古代史の会・京都」講演会(事務局:服部静尚さん・久冨直子さん)。毎月第三火曜日(会場:キャンパスプラザ京都。参加費500円)。
 ☆8月はお休み。

◆水曜研究会(豊中倶楽部自治会館)
 7/24 13:00〜

◆新聞記事紹介「台湾→与那国島 丸木舟が到着」
 ☆魏使の水行速度、時速5km、1日500里が実証された。


第1942話 2019/07/16

服部さんが京都で講演

「盗まれた天皇陵 -卑弥呼の墓はどこに-」

 祇園祭宵山の見物客でごった返す京都市で、服部静尚さん(『古代に真実を求めて』編集長)が講演されました(主催:市民古代史の会・京都)。演題は「盗まれた天皇陵 -卑弥呼の墓はどこに-」というもので、百舌鳥古市古墳群が世界文化遺産に登録されたこともあって、タイムリーな講演会でした。60名ほどの方が参加され、「市民古代史の会・京都」の講演会も定着したようです。
 服部さんの講演は、大和朝廷一元史観の最後の拠り所となっている河内や大和の巨大前方後円墳や卑弥呼の墓とされる箸墓古墳についての検証と批判です。その結論として、河内・大和の巨大古墳は天皇家の祖先の墓ではないこと、箸墓古墳も卑弥呼の墓ではなく、時代も異なることなどを客観的科学的根拠を示して明らかにされました。
 いずれの論点も重要なものですので、「洛中洛外日記」にて紹介していきます。(つづく)


第1941話 2019/07/15

盛況!久留米大学での講演

 昨日、久留米大学御井校舎で開催された公開講座において、「筑紫の姫たちの伝説《倭国古伝》 -みかより姫(俾弥呼)・よど姫(壹與)・かぐや姫-」というテーマで講演させていただきました。雨天にもかかわらず80名ほどの参加がありました。遠くは長崎県から来られた方もありました。ありがたいことです。講演後の質問も数多く出され、とても熱心に聞いていただきました。持ち込んだ『古代に真実を求めて』もほぼ完売できました。
 講演後、大学近くのお店で、福山教授(久留米大学文学部)や犬塚さん(古田史学の会・会員、久留米市)、長崎から見えられた中村さんと懇親会を行いました。中村さんはFaceBookで知り合った〝友達〟です。古田史学の将来や日本の学問研究について、熱く語り合いました。わたしからは、「古田史学の会・九州」を再建したいとの希望を伝えました。
 当日、配られたレジュメの一部をご参考までに転載します。

2019.07.14 久留米大学公開講座
筑紫の姫たちの伝説《倭国古伝》
-みかより姫(俾弥呼)・よど姫(壹與)・かぐや姫-
        古賀達也(古田史学の会・代表)

 わたしたち「古田史学の会」は本年三月に『倭国古伝 姫と英雄と神々の古代史』を上梓しました。同書では全国各地に残る古代伝承を大和朝廷一元史観ではなく多元史観・九州王朝説の視点から分析し、新たな倭国古代史の復元を試みました。
 その中から筑紫(筑前・筑後・肥前など)に残された姫たちの伝承を紹介します。この地域は九州王朝(倭国)の中心領域であり、その地の姫たちの伝承は九州王朝史研究においてもとりわけ重要なものです。たとえば北部九州には次のような女神や女性の伝承があります。

○俾弥呼(ひみか) 甕依姫(『筑紫風土記』逸文)
○壹與(いちよ)  淀姫 與止姫(『肥前国風土記』)
○高良山の「かぐや姫」 (『大善寺玉垂宮縁起』)
○「宝満大菩薩」「河上大菩薩」伝承
○「聖母(しょうも)大菩薩」伝承
○「大帯姫(おおたらしひめ)」伝承
○「神功皇后(気長足姫・おきながたらしひめ)」伝承

 今回の講座ではこうした九州王朝(倭国)の姫たちの伝承研究の一端を紹介します。ご参考までに『倭国古伝 姫と英雄と神々の古代史』の巻頭言「勝者の歴史と敗者の伝承」を転載しました。

【転載】『倭国古伝 姫と英雄と神々の古代史』
 (古田史学の会編『古代に真実を求めて』22集、明石書店)

《巻頭言》勝者の歴史と敗者の伝承
            古田史学の会・代表 古賀達也
 本書のタイトルに採用した「倭国古伝」とは何か。一言でいえば〝勝者の歴史と敗者の伝承から読み解いた倭国の古代伝承〟である。すなわち、勝者が勝者のために綴った史書と、敗者あるいは史書の作成を許されなかった人々の伝承に秘められた歴史の真実を再発見し、再構築した古代日本列島史である。それをわたしたちは「倭国古伝」として本書のタイトルに選んだ。
 その対象とする時間帯は、古くは縄文時代、主には文字史料が残された天孫降臨(弥生時代前期末から中期初頭頃:西日本での金属器出現期)から大和朝廷が列島の代表王朝となる八世紀初頭(七〇一年〔大宝元年〕)までの倭国(九州王朝)の時代だ。
 この倭国とは歴代中国史書に見える日本列島の代表王朝であった九州王朝の国名である。早くは『漢書』地理志に「楽浪海中に倭人有り」と見え、『後漢書』には光武帝が与えた金印(漢委奴国王)や倭国王帥升の名前が記されている。その後、三世紀には『三国志』倭人伝の女王卑彌呼(ひみか)と壹與(いちよ)、五世紀には『宋書』の「倭の五王」、七世紀に入ると『隋書』に阿蘇山下の天子・多利思北孤(たりしほこ)が登場し、『旧唐書』には倭国(九州王朝)と日本国(大和朝廷)の両王朝が中国史書に始めて併記される。古田武彦氏(二〇一五年十月十四日没、享年八九歳)は、これら歴代中国史書に記された「倭」「倭国」を北部九州に都を置き、紀元前から中国と交流した日本列島の代表権力者のこととされ、「九州王朝」と命名された。
 『旧唐書』には「日本はもと小国、倭国の地を併わす」とあり、八世紀初頭(七〇一年)における倭国(九州王朝)から日本国(大和朝廷)への王朝交替を示唆している。この後、勝者(大和朝廷)は自らの史書『古事記』『日本書紀』を編纂し、そこには敗者(九州王朝・他)の姿は消されている。あるいは敗者の事績を自らの業績として記すという歴史造作をも勝者(大和朝廷)は厭わなかった。
 古田武彦氏により、古代日本列島には様々な文明が花開き、いくつもの権力者や王朝が興亡したことが明らかにされ、その歴史観は多元史観と称された。これは、神代の昔より近畿天皇家が日本列島内唯一の卓越した権力者・王朝であったとする一元史観に対抗する歴史概念である。わたしたち古田学派は古田氏が提唱されたこの多元史観・九州王朝説の立場に立つ。
 本書『倭国古伝』において、勝者により消された多元的古代の真実を、勝者の史書や敗者が残した伝承などの史料批判を通じて明らかにすることをわたしたちは試みた。そしてその研究成果を本書副題に「姫と英雄と神々の古代史」とあるように、「姫たちの古代史」「英雄たちの古代史」「神々の古代史」の三部構成として収録した。
 各地の古代伝承を多元史観により研究し収録するという本書の試みは、従来の一元史観による古代史学や民俗学とは異なった視点と方法によりなされており、新たな古代史研究の一分野として重要かつ多くの可能性を秘めている。本書はその先駆を志したものであるが、全国にはまだ多くの古代伝承が残されている。本書を古代の真実を愛する読者に贈るとともに、同じく真実を求める古代史研究者が多元史観に基づき、「倭国古伝」の調査研究を共に進められることを願うものである。
〔平成三十年(二〇一八)十二月二三日、記了〕


第1933話 2019/07/02

『古田史学会報』採用審査の困難さと対策(3)

 前話で極端な例で進歩性の有無について説明しました。しかし、視点(特許では請求項)を変えると、進歩性を有した仮説となるかもしれません。「聖武天皇は右利きであるという仮説を提起し、証明に成功した」という論文の証明方法が、たとえば運筆の痕跡から、右手で書いたか左手で書いたのかがかなりの精度で判定できる技術であれば、犯罪捜査に有効(社会の役に立つ)として進歩性が認められるかもしれません。既に同様の方法の既存技術があれば、新規性が無いとされ特許審査では拒絶査定されますが。
 更に、この〝どうでもよい〟仮説や研究が一躍注目される可能性もあります。それは次のようなケースです。「八世紀の大和朝廷の歴代天皇の真筆を先の分析技術で調査したところ、ほぼ全員が左手で書いていた。この事実は右利きであっても大和朝廷の天皇は左手で書くという作法習慣が存在していた」という、既成概念を覆すような事実を証明できたケースです。これは現実にはありそうもないことですが、このような学界に衝撃を与える研究は注目され、その是非を巡って他の研究者が再現性試験を行ったり、賛否両論が出され、学問の発展に寄与することでしょう。そうであればその仮説の進歩性が認められたということになります。
 ちなみに、学界の常識を覆し、衝撃を与えた学説の一つが古田先生の邪馬壹国説であり九州王朝説であることは、読者にはご理解いただけることでしょう。古田先生の学説は際立った新規性と進歩性を持ったものなのです。(つづく)