水城の敷粗朶工法と傾斜版築
『季刊考古学』第136号を読んでいるのですが、水城の築造技術について林重徳さん(佐賀大学名誉教授)が書かれた論稿「水城」はとても勉強になりました。今まで漠然と考えていた水城の築造技術がいかに素晴らしく、当時の最先端技術の粋を集めて築造されたことがよくわかりました。
水城の築造には版築という種類の異なる土を何層にも突き固める工法が用いられており、その層の間に粗朶が敷き詰められています(水城の下層部分)。この敷粗朶は水城に降った雨水などが土塁に溜まらないように排水する機能があります。これらの技術が水城に採用されていたことは知っていたのですが、林さんの詳しい解説によれば、水城の上部の堤体には鉄分の多い「まさ土」が使用されているため、浸透水の酸素が奪われ、結果として敷粗朶の耐久性が確保されているとのことなのです。敷粗朶工は、堤体下部の引っ張り補強材として作用し、基礎地盤の圧密沈下対策とともに砂質地盤の液状化に対して(地震対策として)も有効であり、「筑紫地震(679年):M=6.7」による大きな被害を被った痕跡も確認されていないそうです。
この水城の版築は水平ではなく傾斜を持っています。博多側は敵の侵入を防ぐために急斜面になっており、版築も緻密に固められ、その層は太宰府側に低くなり、版築層から排水される水は太宰府側に流れるように設計されています。その結果、博多側の急斜面には水が流れることなく、土塁の崩落を防いでいます。
このような実に巧みな工法と設計により水城が築造されていることを、林さんの論文により知ることができました。(つづく)
※わたしのfacebookに水城の断面図・写真を掲載していますので、ご覧ください。