2020年09月25日一覧

第2241話 2020/09/25

田和山遺跡出土「文字」板石硯の画期(1)

 島根県松江市の田和山遺跡出土の「文字」の痕跡がある板石硯について、「洛中洛外日記」2075~2076話(2020/02/05~06)〝松江市出土の硯に「文字」発見(1~2)〟で紹介しましたが、本年六月の『古代文化』(Vol.72-1 2020.06)に、久住猛雄さんの「松江市田和山遺跡出土『文字』板石硯の発見と提起する諸問題」が掲載され、その内容が極めて重要であるため、あらためて紹介することにします。

 本年二月、毎日新聞WEB版(2020年2月1日)は、この板石硯からの「文字」発見を報道しました。その要旨を略述します。

 ①松江市の田和山遺跡で出土した弥生時代中期後半(紀元前後)の石製品にある文様について、福岡県の研究者グループ(福岡市埋蔵文化財課の久住猛雄・文化財主事、柳田康雄・国学院大客員教授ら)が、文字(漢字)の可能性が高いとの研究成果を明らかにした。
 ②石製品は国産のすずりと判断され、国内で書かれた文字ならば従来の確認例を200~300年さかのぼって最古となる。
 ③田和山遺跡は弥生時代の環濠遺跡。石製品は約8センチ四方の板状で、出土時は砥石とされていた。研究者グループは材質や形状を調べ、現地で採れる石製で、擦った痕跡があるくぼみなどから国産のすずりと判断した。
 ④さらに裏の中央部に黒っぽい文様が上下二つあり、岡村秀典(中国考古学)、宮宅潔(中国古代史)両京都大教授らによる画像分析の結果、中国・漢代の木簡に記された隷書に形が類似しており、上は「子」、下は「戊」などを墨書きした可能性があるとした。
 ⑤これまで国内の文字確認例は、三雲・井原遺跡(福岡県糸島市)の土器に刻まれた「竟(鏡)」、貝蔵(かいぞう)遺跡(三重県松阪市)の土器に墨書きされた「田」などがあるが、いずれも2~3世紀だった。
 ⑥九州から近畿にかけて近年、弥生時代のすずりとみられる遺物が相次いで見つかり、古墳時代より数百年早い時代に中国・朝鮮半島との交易を背景に北部九州から文字文化が流入した説が出ていた。久住氏は「国産すずりならば国内で書かれた最古の文字。倭人ではなく渡来系の人々が書いた可能性もある」とする。
 ⑦松江市埋蔵文化財調査室は石製品を赤外線で撮影するなどして調査。同室は「赤外線ではっきり写らず、墨書ではなく汚れの可能性もある」とした。

 今回、『古代文化』に掲載された「松江市田和山遺跡出土『文字』板石硯の発見と提起する諸問題」では、更に新たな知見が加えられ、詳細な分析がなされています。(つづく)