上岡龍太郎が見た古代史
―「アホ・バカ」「ツボケ」の分布考―
上岡龍太郎さんが亡くなられて、テレビ各局で追悼番組が放送されています。その中で必ず取り上げられるのが、上岡さんが司会をされていた名番組「探偵!ナイトスクープ」です。関西ローカルで始まった番組ですが、驚異的な視聴率を誇っていました。この番組で特集された「全国アホ・バカ分布図の完成」編(平成3年、1991年)は日本民間放送連盟賞テレビ娯楽部門最優秀賞などに輝いた日本テレビ史に残る名作でした。同番組で調査された「アホ・バカ分布図」に基づき、番組プロデューサーの松本修さんにより『全国アホ・バカ分布考』が上梓されています(注①)。
この「全国アホ・バカ分布」について、古田先生との対談で上岡さんが紹介されています。『新・古代学』第1集(注②)に掲載された「上岡龍太郎が見た古代史」です。関係部分を要約して転載します。
【以下、転載】
父祖の地足摺は侏儒国やないか
上岡 朝日新聞社から『「邪馬台国」はなかった』が出たんが昭和四六年ですか。人間て、何か変な……。勝手にファンとか、好きな人に事よせて、何か自分と似たところがあるかを見つけたいもんでね。ボクの親父も四国高知県で、土佐清水です。(中略)
ええ、で、先生の論証によると、わが父祖の地は侏儒国やないかと思いましてね。(中略)
古田 あそこは唐人岩とか唐人駄馬とかあるでしょう。あの辺の人たちは日常生活で「この唐人!」といって、罵り言葉ですね、「このバカ」ということをいうんですよ。
「アホ・バカ」と「ツボケ」
上岡 その話でね、ボクは「探偵ナイトスクープ」という朝日放送の番組をやっているんですよ。これはテレビ見ている人からハガキが寄せられまして、その依頼にもとづいて、ボクが探偵局長で自分とこのタレントの探偵を派遣して、その真理について探るという番組です。
たまたま兵庫県の人からのハガキで「私は関東で主人は関西です。ケンカすると私はバカといい主人はアホといいます。アホとバカの境界線はどこにあるんでしょうか」というのがきたんで、「探しに行け!」と。東京ならみんな「バカバカ」というわけですよね。そしてずーっと来だしたら名古屋で「タワケ」ゾーンに突入してしもうたんです。名古屋では「タワケ」というんです。そして名古屋から滋賀県あたりまで来ると「アホ」になるんですね。北野誠というタレントがやっているんですが、「わかりました『タワケ』と『アホ』のゾーンは関ヶ原なんです」と、道を挟んで向こうは「タワケ」でこっちが「アホ」でした。
古田 アハハ、なるほど。
上岡 で、「わかりました」っていうから、「お前な、だれが『タワケ』と『アホ』を調べえというたんじゃ。『バカ』の分布図を調べよ」。これはもう手に負えんということで、朝日放送が日本中の各教育委員会、小学校にアンケートで配布しまして、そして「アホ・バカ」分布図というのを作り上げたんです。(中略)
全国各地から「あなたのところでは人を罵る時にどういうてますか」というふうに……。そしたら柳田国男の方言周圏論、「カタツムリの検証」という、都を中心にしてどんどん広がって外へ行くほど古い言葉が残っている、というのが実証されてたんです。この『全国アホ・バカ分布考』というのはテレビでしか調べようがないんだというんで、かなりすばらしい本なんですよ。
その中の地図を見てみますとですね、古代王朝があったとされるところはやっぱり特色があるんですよ。北九州、出雲、吉備、それからもちろん近畿、そいから越、これらだけは際だって言葉が違うんですよ。で、その中に東北で人をののしる時に「ツボケ」。
古田 そうそう。
上岡 これボクは松本修に聞いたんです。「『ツボケ』というのがあるそうやけど、どうなっている」というたら、「すいません、ボケの系譜に関しては非常に複雑なんで、この際ははずしました」と。「『アホ』と『バカ』に関しては全部分布できたんですけど、ボケは分布がおかしいんです」と。だから、東北では「ツボケ」なんですが、これがものすごう「アホ・バカ」の分布と違う分布をしているのです。で、「ツボケ」というのが北海道へ渡らないんですって、かたくなに本州で止まるんです。
古田 そうなんですよ。
上岡 他のは、離れ小島まで、南西諸島やろが八丈島やろがいくのに、「ボケ」だけはかたくなに止まるんですわ。ずっと分析した人が「これは何かある」っていうんですよ。これをやりたいんですけど、「アホ・バカ」に一生懸命でちょっと「ボケ」はやめてるんですけど、「頼むからいっぺんこれをやってくれ、何かそれから出るかもわからん」といってるんですが。
古田 いや、面白いですね。イギリスのほうで「このドルイド!」というそうですよ。つまり「ドルイド」というのが先住民で、これが罵り言葉で「ドルイド」というそうです。
上岡 ほう、やっぱり先住民。
古田 ええ「唐人」とか「ツボケ」とかあるんですねえ。「ドルイド」の話みたいに、世界的にそのノウハウが。人間がいるところ、日本だけじゃないんですね。
【転載、おわり】
(注)
①松本修『全国アホ・バカ分布考 ―はるかなる言葉の旅路』太田出版、平成五年(1993)。平成八年(1996)に新潮文庫から発刊。
②『新・古代学』第1集、新泉社、1995年。古田史学の会も協賛団体として同書編集委員会に参加した。