2024年02月一覧

第3215話 2024/02/03

「東西・南北」正方位遺構の年代観 (1)

 昨日の「多元の会」リモート研究会の終了後、参加されていた黒澤正延さんと意見交換を行いました。そのとき黒澤さんから、太宰府条坊都市の造営年代を七世紀初頭以前にできないかとの質問がありました。

 太宰府条坊は政庁Ⅰ期と同時期の造営とされ、その暦年は従来の通説では大宰府を大宝律令により定められた地方の役所とするため、創建年代は八世紀初頭とされてきました。しかし、近年では井上信正説(注①)の登場により、藤原京と同時期の七世紀末頃とする説が有力視されつつあります。

 わたしは文献史学の研究により、太宰府条坊都市の創建を九州年号の倭京元年(618)(注②)、政庁Ⅱ期の創建を観世音寺が創建された白鳳十年(670)頃(注③)と考えています。従って、大宰府政庁Ⅰ期と条坊都市は七世紀第1四半期から前半にかけての創建・造営となるのですが、考古学的には整地層から出土する須恵器坏Bの編年により、七世紀末頃(第4四半期)とする井上説も有力なのです。そこで、須恵器坏Bの発生が九州王朝(倭国)の王都太宰府で始まり、太宰府出土の初期段階の坏Bは通説の編年より20~30年早く、七世紀前半に遡るとする仮説を提起しています(注④)。

 黒澤さんの質問に対して、こうした土器編年の問題があるため、七世紀初頭以前まで遡るとするのはさすがに無理があると説明しました。そして、「東西・南北」正方位の条坊都市の成立を七世紀初頭以前にまで古くするのは、同時代に「東西・南北」正方位遺構の出土例がなく、やはり困難ではないかと述べました。(つづく)

(注)
①太宰府条坊都市の成立は政庁Ⅱ期や観世音寺の創建に先行することを考古学的に証明した井上信正氏(太宰府市教育委員会)の説。
②古賀達也「よみがえる倭京(太宰府) ─観世音寺と水城の証言─」『古田史学会報』50号、2002年6月。
③古賀達也「観世音寺・大宰府政庁Ⅱ期の創建年代」『古田史学会報』110号、2012年。
④古賀達也「太宰府出土須恵器杯Bと律令官制 ―九州王朝史と須恵器の進化―」『多元』167号、2022年。


第3214話 2024/02/01

『東京古田会ニュース』No.214の紹介

 『東京古田会ニュース』214号が届きました。拙稿「藤原宮『長谷田土壇説』の再考察」を掲載していただきました。同稿は、八王子セミナー(注①)での藤原宮(京)研究において注目された〝もうひとつの藤原宮「長谷田土壇」〟について考察したものです。

 藤原宮の所在地については江戸時代から大宮土壇(橿原市高殿)が有力視され、大正時代には喜田貞吉が長谷田土壇説(同市醍醐)を発表しました。その後、大宮土壇から大型宮殿遺構が出土したことで論争は決着しましたが、わたしは喜田の指摘した論理性は今でも有力とする見解を「洛中洛外日記」(注②)で表明しました。喜田説の主たる根拠は、大宮土壇を藤原宮とした場合、その京域(条坊都市)の左京のかなりの部分が香久山丘陵にかかるため、大宮土壇の北西に位置する長谷田土壇を藤原宮(南北の中心線)とした方が、京域がきれいな長方形の条坊都市となることです。

 そこで、八王子セミナーに先だって長谷田土壇説を再検討し、そこが王宮であれば、その南北の通りが朱雀大路となり、他の条坊大路よりも幅が大きいはずと考えました。ところが長谷田土壇を南北に通る「二坊大路」の幅は約16mであり、他の偶数大路(四条(坊)、六条(坊)など)と同規模です。他方、大宮土壇にあった藤原宮の朱雀大路は約24mであり、藤原京内では最大です。
ちなみに、九州王朝の倭京(太宰府条坊都市)の朱雀大路は(路面幅)約36m・(側溝芯々間)約37.8m。同じく難波京は約33mで、藤原京より大きいのです。大和朝廷が王朝交代後に造営した平城京は更に巨大化し、朱雀大路幅は約75mです。

 これらの朱雀大路幅を比較すると、長谷田土壇の南北の大路は、朱雀大路としては小さいのです。従って、長谷田土壇を九州王朝や近畿天皇家の王宮とするのは困難であることに気づきました。まだ結論は出ていませんが、朱雀大路の幅という視点は、王宮評価における一つの判断基準として有効ではないかと指摘しました。

 前号に続いて一面には、竹田侑子さん(弘前市、秋田孝季集史研究会々長)の「消えた卑弥呼(2) 卑弥呼は板乃木邑の荒覇吐宮に入り遺陀呼(イダコ)となったか」が掲載されました。和田家文書に見える卑弥呼伝承に着目した論稿です。竹田さんには『東日流外三郡誌の逆襲』(八幡書店)にも原稿「和田家文書を伝えた人々」を書いていただきました。これを機会に、和田家文書研究が更に活発となることを願っています。

(注)
①正式名は「古田武彦記念古代史セミナー2023」。公益財団法人大学セミナーハウス主催。2023年11月11~12日に開催。
②古賀達也「洛中洛外日記」544話(2013)〝二つの藤原宮〟、545話(2013)〝藤原宮「長谷田土壇」説〟