2025年04月14日一覧

第3473話 2025/04/14

久住猛雄氏の「板石硯」論文の紹介(2)

 久住さんの論文「弥生時代における「板石硯」と文字使用の可能性について」(注①)には更に鋭い指摘があります。しかも出土事実に基づく論理的な考察であり、説得力を感じました。当該部分を転載します。

 〝『魏志倭人伝』に、倭と「諸韓国」との外交にも「文書を伝送し」とあるから、韓国側にも書写道具(板石硯・研石)が存在する蓋然性がある。韓国では、陶製円面硯の導入が百済で5世紀からなされるが(都라지2017)、それ以前には今まで認識されていない「板石硯」が多く存在するだろうと予測する。今後、出土品の再検討が必要であろう。書写用具としては「筆」の問題があるが、弥生時代中期後半併行の韓国昌原市茶戸里遺跡において、1号木棺墓より5本の筆が出土している(李健茂1992、武末2019;図11)。列島産の可能性が高い青銅器(中細形銅剣)や付近の祭祀土器に糸島型の須玖式系土器があり、「奴国」や「伊都国」と茶戸里の首長は交渉していたのが明らかなので、列島にも同様な筆が存在した可能性は高い。今後、筆だけでなく、硯研台・硯篋、さらに木簡を含む書写に関わる有機質製品が発見されることが予想されるし、そのような認識で発掘調査とその整理作業に臨む必要があろう。〟

 ここに示された考察は次のような論理構造を持っています。

❶倭人伝には、倭と「諸韓国」との外交にも「文書を伝送し」とあるから、同時期の韓国側にも書写道具(板石硯・研石)が存在する蓋然性がある。
❷弥生時代中期後半併行の韓国の茶戸里遺跡木棺墓より5本の筆が出土している。
❸茶戸里遺跡からは日本列島産の可能性が高い青銅器(中細形銅剣)や糸島型の須玖式系土器が出土しており、北部九州と茶戸里の首長は交渉していたのが明らか。
❹そうであれば、日本列島にも同様に筆や硯研台・硯篋、さらに木簡を含む書写に関わる有機質製品が発見されることが予想される。

 この倭人伝の史料事実と考古学的出土事実から導き出された❹の「予想」は、とても論理的で合理的なものです。考古学界では〝論理の導くところへ行こう。たとえそれが何処に至ろうとも。〟を実践する研究者が増えていることを実感しています。「古田史学の会」ではそうした研究者を応援し、そして学ばせていただきたいと願っています。たとえ意見が異なっていたとしてもです。
6月22日の「列島の古代と風土記」出版記念大阪講演会(注②)での久住さんの講演が待ち遠しいものです。(おわり)

(注)
①久住猛雄(福岡市埋蔵文化財課)「弥生時代における「板石硯」と文字使用の可能性について」韓国慶北大学校人文学術院HK+事業団 第4回国際学術大会『木から紙へ ―書写媒体の変化と古代東アジア―』発表資料集、2021年。
②「古田史学の会」主催。会場は大阪公立大学なんばサテライト I-siteなんば。6月22日(日)13:00開場。講師と演題は次の通り。
久住猛雄 氏 弥生時代における「都市」の形成と文字使用の可能性 ―「奴国」における二つの「都市」遺跡、および「板石硯」と「研石」の存在についてー
正木 裕 氏 伝説と歴史の間 ―筑前の甕依姬・肥前の世田姫と「須玖岡本の王」―。