2025年07月17日一覧

第3507話 2025/07/17

「海の正倉院」

 沖ノ島祭祀遺跡の中の王朝交替(2)

 今回、象眼が確認された沖ノ島の金銅製矛鞘は当時の東アジアで最高峰といえる優品と評価されています。そのことには異論はないのですが、多元史観・九州王朝説から見れば、九州王朝が沖ノ島の祭祀をいかに重要視していたかを示す奉献品と言えます。たとえば、九州では古墳時代の金銀象眼鉄刀が出土しており、ヤマトからの技術にたよる必要はありません。例えば次の象眼鉄刀が著名です。

○銀象眼龍文大刀 宮崎県えびの市、島内地下式横穴墓群出土。古墳時代中期~後期、5~6世紀。全長98.6cm。
○銀象眼錯銘大刀 熊本県玉名郡和水町、江田船山古墳出土。5世紀末~6世初頭。
○金象眼庚寅銘大刀 福岡市西区の元岡古墳群から出土した金象眼の銘文を持つ6世紀の鉄刀。これは四寅剣と呼ばれるもので、国家の災難を防ぐという。庚寅は570年に当たり、九州年号の金光元年。

 また、鉄鏡ではありますが、「金銀錯嵌珠龍文鉄鏡」が大分県日田市のダンワラ古墳から出土しており、魏・漢時代の中国鏡と見られています。これほど見事な金銀錯嵌が施された鉄鏡は国内ではこの一面だけです。
象眼ではありませんが、国内では珍しい鍍金鏡が糸島市から出土しています。それは「鍍金方格規矩四神鏡」と呼ばれる鏡で、福岡県糸島市の一貴山銚子塚古墳から出土しています。4世紀後半。

 以上のように、金銅製矛鞘の象眼は九州王朝の伝統的技術で製造することが可能であり、遠く離れたヤマト王権からの奉献説をわざわざ持ち出す必要はないのです。(つづく)