火山への畏怖と祭祀
―金井遺跡と『隋書』俀国伝―
10月18日、「古田史学の会」関西例会が豊中倶楽部自治会館で開催されました。リモート参加は5名でした。11月例会の会場は大阪産業創造館(大阪市中央区本町)です。関西例会としては初めて使用する会場ですので、ご注意下さい(本稿末の案内参照)。
今回の例会で最も刺激を受けたのが、二宮さんの発表「金井遺跡群と俀国」でした。群馬県渋川市の金井遺跡は、6世紀末から7世紀初頭にかけての榛名山噴火により厚い火山灰に覆われ、当時の社会の姿を伝える遺跡です。そこから出土した甲冑を着た武人(成人男子の人骨)のお辞儀しているような姿勢が注目され、「火山の怒りを鎮めるため、神意への畏怖・祈祷として武人が鎧を着て地面に伏して祈った」とする説も出されています。
こうした遺物や見解を根拠として、多元史観・九州王朝説による新解釈、「金井遺跡群の居館は、統治拠点であると同時に、墳墓と結びつく権威の場であった。その主が甲冑武人であるならば、舟形石棺系前方後円墳の首長層の後継者として俀国の東国支配を担ったと考えられる」を二宮さんが発表しました。そこで指摘されたのが、『隋書』俀国伝に見える阿蘇山の噴火記事と「禱祭」でした。
「有阿蘇山其石無故火起接天。者俗以爲異因行禱祭。」(『隋書』俀国伝)
阿蘇山の噴火に畏怖したであろう九州王朝(主に肥後国)の人々による「禱祭」が、関東の榛名山噴火時でも行われたとする二宮さんの洞察に驚きました。統治の有力者が「俀国の東国支配を担った」と言い切るにはもっと傍証や出土物などの関係性を論じる必要はありますが、検証すべき仮説としてわたしは注目しています。
もう一つ二宮さんの研究で驚いたのが、AIを駆使して多くの報告書や論文を要約されていたことです。AIの進歩は凄まじいもので、これだけの日本語論文・報告書を瞬時にこのレベルで要約できるようになったことを知りました。これからは歴史研究ツールとして誰もが普通にAIを使用し、そうして書かれた論稿が『古田史学会報』や『古代に真実を求めて』に投稿されてくるのかと思うと、ぞっとします。投稿論文を査読し、採否決定する編集部にもAIの処理能力やアルゴリズムについての基本的な理解が必要となるからです。今回の二宮さんの研究に接し、「古田史学の会」もいよいよAI時代に入ったことを実感しました。
10月例会では下記の発表がありました。発表希望者は上田さんにメール(携帯電話アドレス)か電話で発表申請を行ってください。発表者はレジュメを25部作成されるようお願いします。
なお、古田史学の会・会員は関西例会にリモート参加(聴講)ができますので、参加希望される会員はメールアドレスを本会までお知らせ下さい。
〔10月度関西例会の内容〕
①鎌足=豊璋同一人物説 阿武山古墳の被葬者は鎌足との説明は不十分 (大山崎町・大原重雄)
②蘇我馬子と聖徳太子 ―その2― (姫路市・野田利郎)
③阿毎多利思北孤が蘇我馬子であることの検証 (茨木市・満田正賢)
④金井遺跡群と俀国 (京都市・二宮廣志)
⑤「倭京」・「古京」・「新城」について (東大阪市・萩野秀公)
⑥「履中・反正・允恭」の三兄弟と雄略帝 (大阪市・西井健一郞)
⑦{飛鳥浄御原宮は藤原の地にあった}という説の検討 (神戸市・谷本 茂)
⑧不改常典についての新解釈 (八尾市・服部静尚)
⑨長屋王が天皇になれなかった理由 (八尾市・服部静尚)
□「古田史学の会」関西例会(第三土曜日) 参加費500円
11/15(土) 10:00~17:00 会場:大阪産業創造館 (大阪市中央区本町1-4-5)地下鉄中央線堺筋本町駅から東へ徒歩5分
12/20(土) 10:00~17:00 会場:大阪市立総合生涯学習センター (大阪駅前第2ビル5階)