「山神社」名称の由来を考える
「洛中洛外日記」3519話〝東北地方に濃密分布する「山神社」〟で、山神社が東北地方や東海地方に濃密分布していることを紹介しましたが、その神社名の意味や由来についてはよくわかりませんでした。そこで、今回はこの「山神社」名称の由来を考えてみました。
神社名には、地名や山名、神名などが一般的には用いられています。白山神社とか月山神社は山の名前を採用した例です。大山祇神社や八幡神社は神名です。その点、「山神社」は「山(やま・さん)」という神様を祀る神社なのか、「山(やま・さん)」という地名・領域を冠した神社なのか、あるいはそれ以外なのか、まだよくわかりません。
「山の神」伝承は各地にありますが、その神様の本名が「山(やま・さん)」なのか、本名は不明だが山に住んでいる神様だから「山の神」と呼ばれているのか、これもまたよくわかりません。
東北地方に分布する「山神社」のご祭神は大山祇であったり、コノハナサクヤ姫であったりと統一されていないところをみると、もともと「山神社」とあったので、『日本書紀』成立以降に著名な大山祇やコノハナサクヤ姫を祭神として後付け、あるいは本来の神様と取り替えたようにも思われます。しかし、後者であれば本来の神様の名前が共通の祭神として各地に遺っていてもよさそうですが、今のところそうした様子はうかがえません。
「山神社」と似た名称構造を持つ神社に「天神社(てんじんしゃ)」があります。この「天」は sky や heaven ではなく、海を意味する倭語「アマ」です。地名にも使われている、たとえば「天草」のアマです。なお、この場合の「草(クサ)」は grass plnat ではなく、太陽・日を意味する古語「クサ」であり、「天草」とは〝海の太陽=海に沈む夕日〟とする説をわたしは発表しました(注①)。
古田武彦説では天孫族の故地〝高天原〟と呼ばれている壱岐・対馬などの海洋領域を天国(あまくに)としており、「天神」とはアマテラスなどのアマ国領域の神様を意味します。従って、「天神社」の「天」とは天国(あまくに)領域を意味します。「山神社」がこれと同様の名称構造であれば、「山(やま)」という領域の神の社という理解が可能です。
そこで思い起こされるのが、『三国志』倭人伝の中心国名「邪馬壹国」です。古田説によれば、倭(wi)国の中の邪馬(yama)という領域を意味する「邪馬壹国」が、倭国の中心領域の国名になったとしますから、九州王朝の故地、筑紫がヤマであり、それを漢字で「山」と表すことがあるとします(注②)。この理解に基づけば、「山神社」の「山」は筑紫を意味しますが、そうであれば「山神社」の分布が筑紫にあってほしいところですが、それはありません。したがって、「山」の由来を領域名とするのであれば、筑紫ではなく、「山神社」が濃密分布する東北地方に淵源を求めなければなりません。そのような領域が東北地方にあるでしょうか。(つづく)
(注)
①古賀達也「洛中洛外日記」425話(2012/06/12)〝「天草」の語源〟
②筑後(福岡県南部にあった山門郡)の「山門(やまと)」、筑前(福岡市西区)にある「下山門(しもやまと)、上山門(かみやまと)」は、「やま」領域の南北の入り口「門」「戸」を意味する地名と考えられる。
【写真】広島県厳島神社の天神社。山梨県南都留郡富士河口湖町本栖の山神社。