第627話 2013/12/01

「学問は実証よりも論証を重んじる」(6)

 京都御所の木々も紅葉し、京都は最も美しい季節を迎えています。拙宅前の銀杏並木も見事に黄葉し枯れ葉となり舞い散り、冬の気配も感じさせてくれます。

 「元壬子年」木簡と「大化五子年」土器の研究における実証と論証の関わりについて説明してきましたが、これらとは異なり、論証のみが成立し、その後に実証が「後追い」するというケースもありました。「学問は実証よりも論証を重んじる」という言葉が最も際立つケースと言えますが、自然科学では少なからずこのような事例が見られます。たとえば、物理学の相対性理論などはアインシュタインの論理的考察から生まれた「論証」であ り、それまでのニュートン力学による実験データ(実証)からは生まれない理論でした。近年の例ではヒッグス粒子の発見が有名です。ヒッグス博士により約 50年前にその存在が「予言」されていたのですが、科学実験によりヒッグス粒子の存在が確認(実証)されたのはつい最近のことでした。このように直接証拠などの実証を伴わないまま論証が先行して成立するケースが学問にはあるのです。

 わたしもこのようなケースを経験したことがあります。最後にこの経験について紹介します。それは九州年号「大長」の研究のときのことでした。(つづく)

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