第842話 2014/12/27

日本思想史学会の使命

 日本思想史学会の「News Letter No.21(冬季号)」(2014.12.22)が届きました。わたしは古田先生のお勧めで同学会に加入していますが、年次総会で2度ほど研究発表をしたことがあります。筑波大学(2003年)で「二倍年暦」、京都大学(2004年)で「九州年号」について報告しました。
 日本思想史学会は古田先生の恩師、村岡典嗣(むらおか・つねつぐ)先生が東北大学で始められた日本思想史研究を淵源として創立された伝統ある学会で、人文系の様々な分野の研究者約700名が加入しています。しかしながら近年これほど日本の倫理や思想が大きな問題となっているにもかかわらず、現在を生きている人間やその未来に貢献できるような研究や発表が見られないことを不満に思い、同学会へ積極的には関わらず、一会員として外から眺めていました。
 そうしたとき、今回送られてきた「News Letter No.21(冬季号)」に掲載されていた東北大学の佐藤弘夫さんの「会長退任にあたってのご挨拶」に次の一文に目がとまり、わたしと同様の思いを抱いておられていることを知り、ちょっと嬉しくなりましたので紹介します。

 「日本社会ではいま、地球温暖化や原発問題に加え、ヘイトスピーチやネットでの誹謗中傷など、心の劣化ともいうべき現象が深く静かに進行しています。これらの問題の深刻さは、これが近代化と文明化の深化に伴って浮上したものだということです。いまそこにある危機が近代化の深まりのなかで顕在化したものであれば、人間中心主義としての近代ヒューマニズムを相対化できる長いスパンのなかで、文化や文明のあり方を再考していくことが必要でしょう。
 人類が直面している課題と危機を直視しつつ、人類が千年単位で蓄積してきた知恵を、近代化によって失われたものを含めて発掘していくこと、それこそがいま日本思想史を含めた人文科学に求められている任務であると私は考えています。今後、人類の課題と将来を見据えたこうした議論もぜひ深めていきたいものです。」

 冒頭の「地球温暖化」を除けば(この17年間、地球は温暖化していない)、佐藤さんのご意見は大変もっともなものです。佐藤さんとは古田先生のご紹介で日本思想史学会でお会いしたことがあるのですが、実はそれよりもかなり前から佐藤さんのことをわたしは知っていました。日蓮遺文に関する佐藤さんの論文を京都府立総合資料館で読んだことがあり、その論証の方法が古田先生に似ているので、興味を引かれ、お名前が記憶に残っていました。古田先生にそのことをお話ししたところ、佐藤さんは東北大学の後輩にあたり、日本思想史学会で活躍されていることを教えていただきました。
 その後も佐藤さんは活躍され、わたしも佐藤さんの著書『アマテラスの変貌』(法蔵館、2000年)と共著『日蓮大聖人の思想と生涯』(第三文明社、1997年)を読ませていただきました。いずれも好著でした。その佐藤さんは日本思想史学会の会長を歴任され、今年、退任されました。村岡典嗣先生が切り開かれた日本思想史学という学問が、東北大学で今も受け継がれていること、そして佐藤さんのような優れた研究者が支えておられることに、学問の持つ真実の力を見たような気がしました。「古田史学の会」からも日本思想史を研究される方が出られることを願っています。

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