NHK「歴史秘話ヒストリア」の放送倫理
昨晩は出張先の福井市のホテルでNHKの「歴史秘話ヒストリア」を見ました。テーマが「邪馬台国」や「卑弥呼はどこから来たか」というものでしたので、どうせまた一元史観「邪馬台国」畿内説の非学問的・非論理的な内容だろうとは予想していましたが、まさにその通りでした。ただ、視聴率を上げたいためか、今回はやや手の込んだ、奇をてらった番組作りを目指したようです。その要点は、卑弥呼は糸島半島の伊都国生まれで、大和の巻向に「遷都」したというものでした。
要約しますと、糸島半島の平原王墓(2世紀末と解説)の被葬者を卑弥呼の母親か姉妹とし、そこで生まれた卑弥呼が「遷都」して巻向遺跡(3世紀初めと解説)の大型住居に住んでいたというものです。学問的には荒唐無稽(「倭人伝」には倭国が遷都したなどという記事はなく、「そうとれるかもしれない」という記事さえもありません)と言わざるを得ないのですが、そこは「天下のNHK」です。「そういう説がある」という表現でしっかりと「逃げ」を打っていました。しかし、放送された「考古学的事実」は正直です。この番組の荒唐無稽ぶりを見事に証明していました。
たとえば、巻向遺跡から大量に出土した「桃の種」をずらっと並べ、いかにも倭国の女王にふさわしい「ものすごい出土物」とでもいいたいような演出をしていました。他方、平原王墓や同遺跡から出土した大型で大量の内行花文鏡や大量の宝石類(めのう・翡翠・水晶等)の加工品や原石が紹介されていました(番組ではなぜか紹介されませんでしたが、同遺跡からは鉄製品も出土しています)。まともな理性を持つ人であれば、どちらが倭国の中心地にふさわしい出土物かは一目瞭然でしょう。それとも、糸島で生まれた卑弥呼はお母さんから銅鏡の一枚も持たされずに、巻向に「遷都」し、鏡や宝石の代わりにせっせと「桃の種」を集めたとでもいうのでしょうか。噴飯ものです。この番組を制作放送したNHKの担当者に聞いてみたいものです。
ちなみに、NHKもさすがにこれではまずいと考えたようで、大和の黒塚古墳(3世紀後半から4世紀前半と編年されています)を紹介し、出土した三角縁神獣鏡などが映った画像をしらーっと放送していました。ようするに、彼らは「(邪馬台国畿内説は学問的に無理と)知っていて、(巻向が邪馬台国だと)嘘をつく」というかなり不誠実な番組作りを行っているとしか考えられないのです。また、「倭人伝に記されているヤマタイ国」という主旨の虚偽のナレーションも流していました(「倭人伝」には邪馬壹国〔やまいちこく〕と記されています)。NHKの放送倫理はどうなっているのでしょうか。
そういえば福島原発爆発事故のときも、NHKは御用学者を次々と登場させ、「原発は安全に停止した」「メルトダウンはありえない」「ただちに健康に影響はない」との報道を続け、福島第一原発を撮影する定点カメラだけを残し、自社の社員は早々と避難させたと聞いています。そのNHKの報道を信じて逃げなかった多くの福島県の人々が被爆し、子供たちの甲状腺ガンが今も増え続けていることを考えると、NHKに放送倫理を期待するほうが無理なのかもしれません。多くの高校生を残し、沈没船から早々と逃げた船長や、「その場から動くな(逃げるな)」と船内放送した船員を非難する資格は、日本にはないのかもしれ ません。NHKがこの様ですので。
しかし、それでもわたしはNHKに良心的な社員がいることを、真実を放送・報道することを願っています。その「社名」に愛する祖国「日本」を冠しているのですから。