古田史学の会一覧

第2264話 2020/10/17

7世紀末の王朝交替「禅譲」説

 本日、「古田史学の会」関西例会が開催されました。わたしは今月も発表させていただきました。テーマは古代中国における二倍年暦(二倍年齢)についてです。人の寿命を百歳と表記する周代史料群と、その半分の五十歳とする漢代史料群を紹介し、その寿命表記の二倍の差は、先行した周代の二倍年暦に由来すると考えざるを得ないとしました。服部さんや日野さんから厳しい質問や批判をいただきましたので、更なる史料根拠の明示と論証力の高上に努めたいと思います。
 大原さんからは、インドネシアのクラカタウ(クラカトア)火山の噴火の年が文献(『南史』)と火山灰層研究により535年であり、その噴火により地球全体の気候変動をもたらしたこと、火山灰層層位が遺跡の編年に使用できることなどが紹介されました。535年の翌年に九州年号が「僧聴」に改元されており、気象変動による農作物の不作や疫病発生などによる改元かもしれません。以前、「古田史学の会」で記念講演していただいた中塚武先生の酸素同位体比年輪年代法によれば、534年・536年・537年に日本では大干ばつが発生しているとのことで、これもクラカタウ火山の噴火の影響と思われます。
 日野さんからは『日本書紀』に見える三人の「倭姫(媛)」(垂仁天皇の娘、継体天皇の妃、天智天皇の皇后)について、個人名というよりも何らかの「官(役)職名」ではないかとする仮説が発表されました。倭人伝にも「使大倭」という国名の「倭」を用いた役職名が見えることなどを根拠とされました。有力な仮説ではないでしょうか。
 今回の発表で、わたしがもっとも注目していたのが服部さんの「九州王朝天子よりの禅譲で文武天皇は即位した」という仮説でした。先月、わたしが発表した〝王朝統合と交替の新古代史 ―文武・元明「即位の宣命」の史料批判―〟の内容と対応するものでしたので、結論には大賛成ですが、はたして論証できるのだろうかと半信半疑で聞いていました。ところが、『続日本紀』文武元年(697)十二月二八日条の正月拝賀(賀正礼)禁止命令を九州王朝の天子に対する拝賀禁止とされ、その二日後の二年正月一日には文武天皇への拝賀が「大極殿」で実施されたことを根拠に、文武は天皇即位時に九州王朝から禅譲を受けていたとされました。この論証により服部説は成立しており、有力な見解と思われました。
 今回の例会発表は次の通りでした。なお、発表者はレジュメを40部作成されるようお願いします。発表希望者は西村秀己さんにメール(携帯電話アドレス)か電話で発表申請を行ってください。

〔10月度関西例会の内容〕
①継体・安閑・宣化期の二つの可能性について(茨木市・満田正賢)
②九州王朝天子よりの禅譲で文武天皇は即位した(八尾市・服部静尚)
③大噴火と天岩戸神話と埴輪祭祀(大山崎町・大原重雄)
④トランプ大統領の過ちと聖武天皇の過ち(川西市・正木 裕)
⑤「倭姫」という称号について(たつの市・日野智貴)
⑥消息往来―書簡の読みと所在の考察(京都市・岡下英男)
⑦二倍年暦と「二倍年齢」の歴史学 ―周代の百歳と漢代の五十歳―(京都市・古賀達也)
⑧「博徳書書内の「驛」記事について」の検証の続き(東大阪市・萩野秀公)
⑨深草の屯倉記事について(東大阪市・萩野秀公)

◆「古田史学の会」関西例会(第三土曜日) 参加費1,000円(「三密」の回避に大部屋使用のため)
 11/21(土) 10:00~17:00 会場:福島区民センター(※参加費500円)

《各講演会・研究会のご案内》
◆「市民古代史の会・京都」講演会 会場:キャンパスプラザ京都 参加費500円
 10/20(火) 18:30~20:00 「能楽の中の古代史(3)」 老松~飛梅と筑紫の神松伝承~ 講師:正木 裕さん

◆「古代大和史研究会」講演会(原 幸子代表) 参加費500円
 10/27(火) 10:00~12:00 会場:奈良新聞社西館3階
    「多利思北孤の時代③ 「聖徳太子」の「遣隋使」はなかった」 講師:正木 裕さん
 11/17(火) 10:00~12:00 会場:奈良県立図書情報館交流ホールBC室
    「多利思北孤の時代④」 講師:正木 裕さん
 12/22(火) 10:00~12:00 会場:奈良県立図書情報館交流ホールBC室
    「多利思北孤の時代⑤」 講師:正木 裕さん

◆「古代史講演会in八尾」 会場:八尾市文化会館プリズムホール 参加費500円
 11/03(火・祝) 14:00~16:00 ①「大化の改新」と難波京 ②条坊都市はなぜ造られたのか 講師:服部静尚さん

◆「和泉史談会」講演会 会場:和泉市コミュニティーセンター
 11/10(火) 14:00~16:00 「なぜ蛇は神なのか」 講師:大原重雄さん
             「法隆寺薬師像は実は釈迦像だった」 講師:服部静尚さん
 12/08(火) 14:00~16:00 「未定」 講師:未定

◆誰も知らなかった古代史の会 会場:福島区民センター 参加費500円
 12/01(火) 18:30~20:00 「周王朝から邪馬壹国へ ―『倭人伝』の官名『泄謨觚・柄渠觚・兕馬觚』の謎を解く」 講師:正木 裕さん

《古田武彦記念古代史セミナー2020》(八王子セミナー)
 11/14~15 大学セミナーハウス(東京都八王子市)
 新型コロナ対策として、Zoomを使ったオンライン+現地参加の「ハイブリッド方式」での開催となりました。オンライン参加6,000円、現地参加15,000円。


第2259話 2020/10/12

『古田史学会報』160号の紹介

 本日、『古田史学会報』160号が届きましたので紹介します。わたしは近江関連の論稿二編、「西明寺から飛鳥時代の絵画『発見』―滋賀県湖東に九州王朝の痕跡―」と「近江の九州王朝 ―湖東の『聖徳太子』伝承―」を発表しました。近年、滋賀県湖東地域からは飛鳥時代に遡る瓦の出土などが続いており、九州王朝との関係がうかがわれ、目が離せません。

 会報冒頭を飾った服部さんの「改新詔は九州王朝によって宣勅された」は関西例会で発表された研究で、7世紀末の九州王朝から大和朝廷への王朝交替に関わるものであり、注目されています。例会では賛否両論が出されており、これからの討論での丁寧な掘り下げと展開が期待されます。
山田さんは久しぶりの会報登場です。ともに「さきもり」(辺境防備の兵)と訓まれてきた「防」と「防人」の従来説の理解に対して疑問を呈され、「防」は九州王朝(倭国)の首都圏(畿内)を防衛する版築土塁などの防衛施設であり、「防人(さきもり)」はその「防」に配された防備兵のこととされました。『日本書紀』に見える「防」と「防人」の悉皆調査に基づく仮説であり、方法論にも結論にも説得力を感じました。

 谷本稿も関西例会で発表された仮説で、意表をつくものでした。従来、「不記」と考えられてきた『二中歴』「年代歴」の虫食い部分の字を「不絶」とする新説です。従来説の「不記」が妥当とするわたしの見解とは異なりますが、立論のための方法論が従来にない巧みなもので、学問的刺激を受けました。

 160号に掲載された論稿は次の通りです。投稿される方は字数制限(400字詰め原稿用紙15枚程度)に配慮され、テーマを絞り込んだ簡潔な原稿とされるようお願いします。

【『古田史学会報』160号の内容】
○改新詔は九州王朝によって宣勅された 八尾市 服部静尚
○「防」無き所に「防人」無し ―「防人」は「さきもり(辺境防備の兵)にあらず」― 鴨川市 山田春廣
○ 西明寺から飛鳥時代の絵画「発見」―滋賀県湖東に九州王朝の痕跡― 京都市 古賀達也
○欽明紀の真実 茨木市 満田正賢
○近江の九州王朝 ―湖東の「聖徳太子」伝承― 京都市 古賀達也
○『二中歴』・年代歴の「不記」への新視点 神戸市 谷本 茂
○「壹」から始める古田史学・二十六
多利思北孤の時代Ⅲ ―倭国の危機と仏教を利用した統治― 古田史学の会・事務局長 正木 裕
○『古田史学会報』原稿募集
○史跡めぐりハイキング 古田史学の会・関西
○古田史学の会・関西例会のご案内
○各種講演会のお知らせ
○2020年度会費納入のお願い
○編集後記 西村秀己


第2246話 2020/09/29

『東京古田会ニュース』194号の紹介

『東京古田会ニュース』194号が届きました。同号には拙稿「大化の改新詔と王朝交替」を掲載していただきました。同稿では、『続日本紀』の文武天皇「即位の宣命」や『日本書紀』の大化二年改新詔などの分析に基づいて、7世紀末の九州王朝から大和朝廷への王朝交替について考察しました。まだ初歩的な研究段階で不十分で未完成の論稿ですから、これからも修正や論究を深めたいと思います。
 服部静尚さん(『古代に真実を求めて』編集長)の論稿「継体天皇と女系天皇」も掲載されていました。現在の女系天皇反対論や容認論に継体天皇の皇位継承例が取り上げられることもあり、現代史からも興味深い研究です。なお、同稿は「古田史学の会」関西例会で口頭発表され論争となったテーマで、論点整理を含めた検証が待たれます。
 中村通敏さん(福岡市)の論稿「『史記』の『穆王即位50歳説』について」は、わたしや古田先生の古代中国や『論語』における二倍年暦説を批判したもので、なかなか興味深い内容でした。たとえば、そこで紹介された中国の国家的研究プロジェクトによる「穆王の即位年齢20歳」説は、『史記』の「50歳即位」記事との比較(2.5倍)から、周王朝の天子の年齢が二倍年暦を淵源とする「二倍年齢」で『史記』に記述されていたことの証明にもなりそうです。この点、稿をあらためて詳述します。


第2236話 2020/08/20

明治天皇の即位の宣命と「不改常典」

 先日の「古田史学の会」関西例会では『続日本紀』元明天皇の即位の宣命に初めて見える「不改常典」について研究発表しました。その要旨は、天智の近江朝が九州王朝からその権威を引き継いだ宣言こそ「不改常典」の内実ではないかとするものでした。そしてそれは「禅譲」に近いものではないかと推定しました。
 しかし、『日本書紀』は九州王朝の存在や、天智がその権威を継承したことを隠していますし、宣命で述べられた天智天皇が定めた「不改常典」という言葉さえも掲載していません。ですから、『日本書紀』成立後(720)の聖武天皇や孝謙天皇らの即位宣命にも「不改常典」のことが記されてはいるものの、初代の神武天皇を近畿天皇家の権威の淵源とする『日本書紀』の大義名分と、天智天皇が定めた権威の淵源「不改常典」との関係が不明瞭です。
 ところが、この天智天皇が定めた法(「不改常典」法)と『日本書紀』の大義名分の両方含む即位の宣命があります。それは慶應四年(1868)八月二十七日に発布された明治天皇の即位の宣命です(翌九月に「明治」に改元)。当該部分を紹介します。

 「掛(かけまくも)畏(かしこ)き近江の大津の宮に、御宇(あめのした)しろしめし、天皇の初め賜ひ定め賜へる法の随(まま)に、仕え奉(まつる)と仰せ賜ひ授け賜ひ」
 「橿原の宮に御宇しろしめし、天皇の御(おん)創(はじ)めたまへる業(わざ)の古(いにしへに)基(もとづ)き、大御世を弥(いや)益々に、吉(よ)き御代と固(かため)成(な)し賜はむ」

 このように、近世においても天智天皇と神武天皇の二人が皇室の歴史的権威の淵源とされていることは興味深いことと思います。

【明治天皇の即位の宣命 原文】
 「現神止大洲国所知須、天皇我詔旨良万止宣布勅命乎、親王諸臣百官人等、天下公民衆聞食止宣布。掛畏伎平安宮爾、御宇須倭根子天皇我、宜布此天日嗣高座乃業乎、掛畏伎近江乃大津乃宮爾、御宇志、天皇乃初賜比定賜倍留法随爾、仕奉止仰賜比授賜比、恐美受賜倍留御代々乃御定有可上爾、方今天下乃大政古爾復志賜比弖、橿原乃宮爾御宇志、天皇御創業乃古爾基伎、大御世袁弥益々爾、吉伎御代止固成賜波牟、其大御位爾即世賜比弖、進毛退毛不知爾恐美坐佐久止宣布大命乎、衆聞食止宣布。(後略)」


第2235話 2020/08/19

王朝統合と交替の古代史論争

 本日、「古田史学の会」関西例会が開催されました。わたしは久しぶりの発表です。会員の皆さんの発表を優先するために、なるべく例会での発表は遠慮していたのですが、正木裕さん(古田史学の会・事務局長)からの要請もあり、「洛中洛外日記」で連載した文武・元明「即位の宣命」の史料批判について発表させて頂きました。厳しい質問や批判もよせられましたが、新たな発見もあり、有意義でした。
 今回の例会では、服部静尚さん(『古代に真実を求めて』編集長)からの、大化二年(646)改新詔の舞台は難波宮で、九州王朝による七世紀中頃のものとする研究発表は説得力があり勉強になりました。同改新詔は九州年号の大化二年(696)に出されたものが、『日本書紀』編纂時に「大化」年号ごと50年遡らされたとわたしは考えてきましたが、今回の服部さんのご指摘により、それほど単純なものではなく、詳細な見直しが必要であることに気づきました。自説の誤りや不十分さに気づくことができるのも、関西例会の醍醐味で、ありがたいことです。
 正木さんの発表は、謡曲・能などの古典芸能に強い正木さんならではのものでした。能楽「老松」が九州王朝の近江遷都の傍証になるというもので、会報での発表が待たれます。
 今回の例会発表は次の通りでした。なお、発表者はレジュメを40部作成されるようお願いします。発表希望者も増えていますので、早めに西村秀己さんにメール(携帯電話アドレス)か電話で発表申請を行ってください。

〔9月度関西例会の内容〕
①欽明紀の真実(茨木市・満田正賢)
②女王国論(姫路市・野田)
③古くて新しい今城塚古墳(大山崎町・大原重雄)
④能楽「老松」と九州王朝の近江遷都(川西市・正木 裕)
⑤改新詔は九州王朝によって難波宮で宣勅された(八尾市・服部静尚)
⑥王朝統合と交替の新古代史 ―文武・元明「即位の宣命」の史料批判―(京都市・古賀達也)
⑦博徳書内の「驛」記事について(東大阪市・萩野秀公)

◆「古田史学の会」関西例会(第三土曜日) 参加費1,000円(「三密」の回避に大部屋使用のため)
 10/17(土) 10:00~17:00 会場:ドーンセンター
 11/21(土) 10:00~17:00 会場:福島区民センター(※参加費500円)

《各講演会・研究会のご案内》
◆「市民古代史の会・京都」講演会 会場:キャンパスプラザ京都
 10/20(火) 18:30~20:00 「能楽の中の古代史」 講師:正木 裕さん

◆「古代大和史研究会」講演会(原 幸子代表) 参加費500円
 09/29(火) 10:00~12:00 会場:奈良県立図書情報館
    「多利思北孤の時代② 仏教を梃とした全国統治」 講師:正木 裕さん
 10/27(火) 10:00~12:00 会場:奈良新聞社西館3階
    「多利思北孤の時代③ 「聖徳太子」の「遣隋使」はなかった」 講師:正木 裕さん

◆「古代史講演会in八尾」 会場:八尾市文化会館プリズムホール
 10/03(土) 14:00~16:00 ①「古代瓦と飛鳥寺院」 ②「法隆寺の釈迦三尊像と薬師像」 講師:服部静尚さん
 11/03(火・祝) 14:00~16:00 ①「大化の改新」と難波京 ②「条坊都市はなぜ造られたのか」 講師:服部静尚さん

◆「泉史談会」講演会 会場:和泉市コミュニティーセンター
 10/13(火) 14:00~16:00 「疫病と古代の戦争 ―『聖徳太子』は天然痘で薨去した」 講師:正木 裕さん
 11/10(火) 14:00~16:00 「なぜ蛇は神なのか」 講師:大原重雄さん
             「法隆寺薬師像は実は釈迦像だった」 講師:服部静尚さん
 12/08(火) 14:00~16:00 「未定」 講師:未定

◆誰も知らなかった古代史の会 会場:福島区民センター
 10/06(火) 18:30~20:00 「疫病と古代の戦争 ―『聖徳太子』は天然痘で薨去した」 講師:正木 裕さん
 12/01(火) 18:30~20:00 「周王朝から邪馬壹国へ ―『倭人伝』の官名『泄謨觚・柄渠觚・兕馬觚』の謎を解く」 講師:正木 裕さん

《古田武彦記念古代史セミナー2020》(八王子セミナー)
 11/14~15 大学セミナーハウス(東京都八王子市)
 新型コロナ対策として、Zoomを使ったオンライン+現地参加の「ハイブリッド方式」での開催となりました。オンライン参加6,000円、現地参加15,000円。


第2226話 2020/09/06

八王子セミナー用論文

「古代戸籍に見える二倍年暦の影響」が完成

 本年11月14日(土)・15日(日)に開催される「古田武彦記念 古代史セミナー2020」で、二倍年暦をテーマに研究発表させていただくのですが、それに先立ち当該論文の提出を要請されています。本日、ようやくその論文「古代戸籍に見える二倍年暦の影響 ―『延喜二年籍』『大宝二年籍』の史料批判―」が完成しました。A4版22頁に及ぶ長い論文になりましたが、短期日に書き上げることができたのも、「定年退職」で時間がとれるようになったおかげです。
 同論文は、大宝二年籍「御野国戸籍」(702年)に見える高齢者の多さと、戸主と嫡子の大きな年齢差(40歳以上)を、「庚午年籍」造籍時(670年)での「二倍年齢登録」によるとする仮説を提起したものです。発表時間は30分ですから、これからは発表用パワーポイントを作成し、わかりやすい発表ができるよう準備します。
 なお、今回のセミナーはコロナ対策として現地参加とは別に、インターネット(zoom使用)によるオンライン参加も可能となりました。遠方の方には便利だと思います。オンライン参加費は一般6,000円、学生1,000円(資料代、郵送代として)とのことで、詳細は主催者「大学セミナーハウス」のHPをご参照下さい。わたしは、「古田史学の会」が共催していることもあり、現地参加する予定です。多くの皆様とお会いできることを楽しみにしています。


第2225話 2020/08/04

『多元』No.159の紹介

 本日、友好団体「多元的古代研究会」の会紙『多元』No.159が届きました。
 同号の冒頭に掲載された吉村八洲男さん(上田市)の「『坂城神社・由緒書』とその歴史」には、『発見された倭京』収録の山田春廣さん(古田史学の会・会員、鴨川市)の論文「『東山道十五国』の比定」を紹介されながら、『日本書紀』景行紀に見える「東山道十五国都督」記事が年代的に問題があるとして、疑問視されています。九州王朝が都督を任命するのは中国の冊封から抜けた六世初頭からであり、四世紀頃とされる景行の時代とは合わないという指摘はもっともです。
 服部静尚さん(『古代に真実を求めて』編集長)の論稿「天武天皇は筑紫都督倭王だった 前篇」は、まず刺激的なタイトルに驚きました。この前篇では、『日本書紀』天智紀に見える「筑紫都督府」を唐が設置したものとする仮説と壬申の乱についての分析がなされています。後篇が楽しみです。


第2221話 2020/09/02

9月15日(火)、

京都市で講演「万葉の色と染め」します

 7月末に永年勤めた化学会社を定年退職しました。生活のリズムが大きく変わりましたが、ようやく新生活にもなれてきました。そこで9月15日(火)に開催される「市民古代史の会・京都」主催講演会で講演させていただくことにしました。
 「万葉の色と染め」というテーマで、〝理系の古代史〟という視点から古代日本の染色技術の解説とその技術が現代の先端科学に受け継がれていることなどを紹介します。また、今上天皇即位礼で着られた〝黄櫨染の御袍〟についても化学的に説明します。
 会場は京都駅前の「キャンパスプラザ京都」で、交通アクセスは抜群です。開始は18:30からで、コロナ対策は万全を期します。皆さんのご参加をお願いいたします。10月は正木裕さん(古田史学の会・事務局長)が「能楽の中の古代史」について講演されます。

◆「市民古代史の会・京都」講演会 会場:キャンパスプラザ京都
 09/15(火) 18:30~20:00 「万葉の色と染」 講師:古賀達也
 10/20(火) 18:30~20:00 「能楽の中の古代史」 講師:正木 裕さん


第2211話 2020/08/23

『古代に真実を求めて』24集の特集決定

 本日、『古代に真実を求めて』24集の編集会議を大阪で行い、特集テーマと採用稿などについて検討しました。古田先生の『「邪馬台国」はなかった』発刊50周年記念を特集することとし、特集論文・コラムや一般論文などの採否検討を行いました。
 タイトルは服部静尚編集長提案の『俾弥呼と邪馬壹国 ―古田武彦『「邪馬台国」はなかった』発刊50周年記念―』が採用されました。コンセプトには〝『「邪馬台国」はなかった』を読んだことのない一般読者でもわかる〟を採用し、特集論文はよりわかりやすく書いてもらい、コラムは面白く興味を持ってもらえるテーマや古田説解説とすることにしました。概論と次の項目別に進展を見せた研究論文を掲載します。

(1)里程論・短里説
(2)二倍年暦
(3)倭国の文化・文物論
(4)邪馬壹国の考古学
(5)倭人は太平洋を渡った

 引き続き、論文内容の審査とリライトの要請などを行っていきます。以上、取り急ぎ報告いたします。


第2110話 2020/08/22

旧石器捏造事件の想い出

 本日、「古田史学の会」関西例会が開催されました。司会の西村秀己さん(全国世話人、高松市)が所用で参加されなかったので、正木裕さん(古田史学の会・事務局長)に司会進行を担当していただきました。わたしはご町内(上京区梶井町)の地蔵盆のため、1時間ほど遅刻しましたので、服部さんの発表を聞けませんでした。そこで、お昼の休憩時間に概要を教えていただきました。
 今回の発表では、大原さん(『古代に真実を求めて』編集部)による、旧石器捏造事件の解説は特に印象的でした。当時、特定人物による旧石器の発見が続出したことを疑問視する考古学者は少なくなかったのですが、学界の「権威」に対して沈黙したこと、事件には「共犯者」がいたとする見解などが紹介されました。そして、「事件を風化させない継続的な働きかけや考古学への外部チェックのような存在として古田史学はその役割を発揮しなければならないのではないか」と締めくくられました。
 旧石器捏造事件が発覚する前に、古田先生はその捏造の当事者に会われたことがあるとお聞きしました。その後、「古田史学の会・仙台」がその人物に講演をお願いしたところ、急に態度がよそよそしくなり、交流が途絶えたとのことです。そしてその直後に捏造事件が明るみになったことなど、わたしは大原さんの発表を聞いていて思い出しました。
 正木さんからは『隋書』や『日本書紀』に見える、中国(隋・唐)と日本(九州王朝・近畿天皇家)との国書や交流記事についての古田先生の説が初期の頃と晩年とでどのように変化したのかについて解説され、それぞれの問題点とその解決案についての発表がありました。かなり重要で複雑な論証を含む内容ですので、別の機会に改めて論じたいと思います。
 今回の例会発表は次の通りでした。なお、発表者はレジュメを40部作成されるようお願いします。発表希望者も増えていますので、早めに西村秀己さんにメール(携帯電話アドレス)か電話で発表申請を行ってください。

〔8月度関西例会の内容〕
①秦韓慕韓問題(八尾市・服部静尚)
②倭地周旋と邪馬台国論(姫路市・野田利郎)
③風化させてはならない旧石器捏造事件(大山崎町・大原重雄)
④欽明天皇の存在にまつわる不可思議(茨木市・満田正賢)
⑤「驛」記事の検証(東大阪市・萩野秀公)
⑥『書紀』の「小野妹子の遣唐使」記事とは何か(川西市・正木 裕)

◆「古田史学の会」関西例会(第三土曜日) 参加費1,000円(「三密」の回避に大部屋使用のため)
 09/19(土) 10:00~17:00 会場:ドーンセンター
 10/17(土) 10:00~17:00 会場:ドーンセンター
 11/21(土) 10:00~17:00 会場:福島区民センター(※参加費500円)

《各講演会・研究会のご案内》
◆「市民古代史の会・京都」講演会 会場:キャンパスプラザ京都
 09/15(火) 18:30~20:00 「万葉の色と染」 講師:古賀達也
 10/20(火) 18:30~20:00 「能楽の中の古代史」 講師:正木 裕さん

◆「古代大和史研究会」講演会(原 幸子代表) 参加費500円
 09/29(火) 10:00~12:00 会場:奈良県立図書情報館
    「多利思北孤の時代② 仏教を梃とした全国統治」 講師:正木 裕さん
 10/27(火) 10:00~12:00 会場:奈良新聞社西館3階
    「多利思北孤の時代③ 「聖徳太子」の「遣隋使」はなかった」 講師:正木 裕さん

◆「古代史講演会in八尾」 会場:八尾市文化会館プリズムホール
 09/12(土) 14:00~16:00 ①「九州王朝」と「倭国年号」の世界 ②「盗まれた天皇陵」 講師:服部静尚さん
 10/03(土) 14:00~16:00 ①「古代瓦と飛鳥寺院」 ②「法隆寺の釈迦三尊像と薬師像」 講師:服部静尚さん
 11/03(火・祝) 14:00~16:00 ①「大化の改新」と難波京 ②「条坊都市はなぜ造られたのか」 講師:服部静尚さん

◆「和泉史談会」講演会 会場:和泉市コミュニティーセンター

全て順延したので削除

 

《古田武彦記念古代史セミナー2020》(八王子セミナー)
 11/14~15 大学セミナーハウス(東京都八王子市)
 新型コロナ対策として、Zoomを使ったオンライン+現地参加の「ハイブリッド方式」での開催となりました。オンライン参加6,000円、現地参加15,000円。


第2202話 2020/08/11

『古田史学会報』159号の紹介

 『古田史学会報』159号が発行されましたので紹介します。わたしは、「造籍年のずれと王朝交替 ―戸令『六年一造』の不成立―」を発表しました。『養老律令』戸令で戸籍は六年ごとに造ることと定められていますが、初めての全国的戸籍とされている「庚午年籍」(670年)から現存最古の戸籍「大宝二年籍」(702年)の間は32年であり、6年で割り切れません。このことから、両戸籍は異なる権力者により造籍されたと考えられ、それは九州王朝から大和朝廷への王朝交替の痕跡であると論じたものです。

 正木さんは、九州年号「大化」(元年は695年)と『日本書紀』「大化」(元年は645年)が50年ずれていることから、九州王朝史料から『日本書紀』大化年間頃へ50年ずらして転用された記事があり、それには藤原宮造営も含まれるとする論稿「移された『藤原宮』の造営記事」を発表されました。『日本書紀』の編集方法(九州王朝記事の転用方法)がまた一つ明らかになったようです。

 阿部さんの論稿「『藤原宮』遺跡出土の『富本銭』について ―『九州倭国王権』の貨幣として―」は、従来の研究では富本銭の中でも新しいタイプに分類されていた藤原宮出土品が、その重量や銭文の字体などから判断して古いタイプであり、九州王朝により造られたとするものです。これからの多元的古代貨幣研究にとって、基本論文の一つになるのではないでしょうか。

 服部さんの「磐井の乱は南征だった」は関西例会で発表された研究で、『日本書紀』に引用された『芸文類聚』の内容分析から、『日本書紀』の「磐井の乱」記事は、九州王朝内での「南征」記事の転用とされました。『芸文類聚』の内容に立ち入って、多元的に『日本書紀』記事を検証するという新しい研究方法の提示という意味に於いても注目される論稿です。

【古田史学会報』159号の内容】
○移された「藤原宮」の造営記事 川西市 正木 裕
○造籍年のずれと王朝交替 ―戸令「六年一造」の不成立― 京都市 古賀達也
○「藤原宮」遺跡出土の「富本銭」について ―「九州倭国王権」の貨幣として― 札幌市 阿部周一
○「俀国=倭国」は成立する ―日野智貴氏に答える― 京都市 岡下英男
○磐井の乱は南征だった 八尾市 服部静尚
○「壹」から始める古田史学・二十五
多利思北孤の時代Ⅱ ―仏教伝来と「菩薩天子」多利思北孤の誕生― 古田史学の会・事務局長 正木 裕
○各種講演会のお知らせ
○史跡めぐりハイキング 古田史学の会・関西
○『古田史学会報』原稿募集
○古田史学の会・関西例会のご案内
○編集後記 西村秀己


第2190話 2020/07/27

『東京古田会ニュース』193号の紹介

『東京古田会ニュース』193号が届きました。同号には拙稿「古代日本の感染症対策 ―九州王朝と大和朝廷―」を掲載していただきました。おりからのコロナ禍もあり、古代における感染症対策としての九州王朝と大和朝廷の事績や伝承を紹介したものです。
 たとえば、聖武天皇の時代に九州方面から流行した天然痘の脅威に曝され、天平八年(七三六)二月二二日に天皇家(光明皇后ら)が法隆寺で大規模な法会を開催し、釈迦三尊像を含む諸仏像に多くの奉納品を施入しています。この法会が「二月二二日」であることから、近畿天皇家は九州地方から発生した天然痘の流行を前王朝の祟(たた)りと考え、その前王朝の寺院(法隆寺)で大規模な法会を多利思北孤の命日「二月二二日」に開催したのです。
 九州王朝でも感染症の流行により九州年号を改元しています。正木裕さん(古田史学の会・事務局長)の研究によれば、金光元年(五七〇)に熱病蔓延という国難にあたり、邪気を祓うことを願って九州王朝が「四寅剣」(福岡市元岡古墳出土)を作刀しています。また、『王代記』金光元年条には「天下熱病起ル」との記事が見え、熱病の蔓延により九州年号が「金光」に改元されたことがわかります。
 同号に掲載された安彦克彦さんの「『和田家文書』から『日蓮聖人の母』を探る」も優れた論稿でした。安彦さんの和田家文書研究の進展にはいつも驚かされます。