第2039話 2019/11/13

「新・八王子セミナー2019」の情景(2)

 今回の「古田武彦記念 古代史セミナー2019」(新・八王子セミナー2019)で、最も素晴らしかった研究発表は大墨伸明さん(鎌倉市)による〝「念仏不信人」と記された『一枚起請文』の新史料について〟でした。
 和田家文書の金光上人関連史料に法然の『一枚起請文』と呼ばれている文書(和風漢文体)があり、従来の「一枚起請文」(仮名漢字交じり)とは意味が正反対になっている部分があることを、昨年の新・八王子セミナーで安彦克己さん(東京古田会・副会長)が紹介されました。
 今回の発表で大墨さんは更に研究を深められました。たとえば、法然による消息文(手紙)に見える「信」の用例を提示され、和田家文書に記された「念仏不信人(「念仏を信じない人」)」とする理解が法然の思想を正しく深く表しており、従来説のように『一枚起請文』に記された「念仏を信せん人は」を〝念仏を信じる人は〟と読むのは不正確であり、後代の弟子・後継者等による法然思想の変容の結果ではないかとされました。
 この大墨さんの研究は和田家文書研究の精華であり、日本思想史学上からも素晴らしい発見と思いました。セミナー終了時に、「日本思想史学会でも発表してほしい。古田先生が聞かれたらきっと喜ばれたに違いありません」と大墨さんに賛辞を贈りました。この発表を聞けただけでも、今回のセミナーに参加してよかったと思いました。(つづく)

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