平成24年の回顧
昨年に続いて、年末にあたり平成24年を回顧してみます。もちろん「古田史学の会」関連の個人的学問的な関心に基づいたものです。順不同ですが、印象の強いものから取り上げてみます。
1.太宰府出土「戸籍」木簡の衝撃
やはり今年の筆頭はこれでしょう。九州王朝の時代の「戸籍」関連木簡が太宰府から出土したのですから、九州王朝末期の王朝中枢領域の研究にとって第一級の文字史料です。
2.市 大樹著『飛鳥の木簡 古代史の新たな解明』と多元的木簡研究
太宰府「戸籍」木簡出土を契機に、古田学派では木簡に関する関心が一段と高まりました。その同時期に中公新書から刊行された市
大樹著『飛鳥の木簡 古代史の新たな解明』は一元史観に立脚したものとはいえ、最新の木簡研究の成果が記されており、わたしも大変勉強になった一冊です。
これらを契機に「多元的木簡研究会」(略称:たも研)を発足させることになりました。
3.新人論客の登場
札幌市の阿部周一さんが彗星のように登場され、次々と研究論文を投稿されています。会報掲載が間に合わないほどの投稿ペースです。さらなる研究の深化が期待されます。
4.観世音寺創建年史料の発見
阿部周一さんから『日本帝皇年代記』(鹿児島県、入来院家所蔵未刊本)が紹介され、その中に白鳳10年条(670)に「鎮西建立観音寺」という記事があることをお知らせいただきました。
また、井上肇さんから送っていただいた『勝山記』にも観世音寺の創建年が白鳳10年と記録されていました。観世音寺創建年については、『二中歴』では
「白鳳年間(661~683)」とされているのですが、具体的年次は不明でした。今回の「発見」により、創建年が明らかとなり、太宰府編年研究が前進しま
した。
5.越智国の「紫宸殿」「天皇」地名
西条市(旧・東予市)に字地名「紫宸殿」とその近傍に字地名「天皇」があることが、「古田史学の会・四国」の今井久さんらにより報告されました。この発見により、古代越智国の位置づけや九州王朝論に新たな展開が期待されています。
6.合田洋一著『地名が解き明かす古代日本』
合田洋一さん(古田史学の会・全国世話人、同四国の会事務局長)が『地名が解き明かす古代日本』(ミネルヴァ書房)を上梓されました。地名を多元史観・九州王朝説により考察されたもので、古田史学の新たな分野と可能性を拓かれました。
7.中国にあった「聖徳太子」九州年号史料
名古屋市の服部和夫さん(古田史学の会・会員)から、聖徳太子が書写したとされる『維摩経』断簡が中国にあり、末尾に九州年号「定居元年」が記されていることが報告されました。これにより、九州王朝の「聖徳太子」という視点が明確となり、研究が促されました。
8.久留米大学公開講座で「九州王朝論」講義
九月に開催された久留米大学公開講座で「筑後の九州王朝」というテーマでわたしと正木裕さんが講義を行いました。古田先生以外の研究者が先生の後を受け
継ぎ、大学の公開講座で古田説・九州王朝論が講義できる時代になったのです。10年前には考えられなかった快挙です。
この他にも、ミネルヴァ書房からは古田先生の著作が続々と復刻されており、全国の書店に並ぶようになりつつあります。来年も古田史学や「古田史学の会」にとって飛躍の年となるでしょう。楽しみです。