『古田史学会報』190号の紹介
『古田史学会報』190号を紹介します。同号には拙稿〝温泉大国の九州王朝と蝦夷国 ―すいたの湯の入浴序列―〟を掲載して頂きました。同稿は、国内県別の温泉湧出量が蝦夷国(東北・北海道)と九州王朝(別府温泉・指宿温泉・他)に多いことに注目し、7~8世紀の都の中で太宰府(倭京)だけに温泉(二日市温泉=すいたの湯)が隣接していることから、九州王朝は意図的に温泉の側に遷都したとする仮説を提起しました。
さらに、すいたの湯(川湯)には入浴序列が決められており、最初は大宰府官僚。その次に入浴できるのが、身分的には高くない「丁(よぼろ)」と呼ばれる労役に就いた人々であることを紹介しました。この序列が九州王朝時代にまで遡るのかは未詳ですが、当時の人々の思想性を考える上で興味深い風習であるとしました。
本号で最も注目したのが谷本稿でした。昨今の「邪馬台国」説、なかでも畿内説の学問レベルが50年前(古田武彦の邪馬壹国説以前)にまで逆行していることを指摘したものです。近年、古田説支持者・古田ファンの中でさえも、ややもすれば古田説(邪馬壹国説・短里説など)への理解が曖昧になっていたり、誤解されていることをわたしも懸念していましたので、谷本さんの指摘には深く同意できました。古田史学の原点に戻って、多元史観やフィロロギーをわたし自身も学び直すきっかけにしたいと思えた、谷本さんの鋭い好論でした。
萩野稿は編集部の手違いもあり、掲載が大きく遅れてしまいました。お詫びいたします。白石稿は、この度刊行された御著書『非時香菓(ときじくのかくのこのみ) ―斉明天皇・天智天皇伝説―』(郁朋社)の執筆動機から発行後の評判までを綴ったエッセイ。こうした投稿も大歓迎です。
190号に掲載された論稿は次の通りです。
【『古田史学会報』190号の内容】
○繰り下げられた利歌彌多弗利の事績 川西市 正木 裕
○考古学から論じる「邪馬台国」説の最近の傾向 神戸市 谷本 茂
○消された「詔」と移された事績 東大阪市 萩野秀公
○生島神社と『祝詞』(一) 上田市 吉村八洲男
○温泉大国の九州王朝と蝦夷国 ―すいたの湯の入浴序列― 京都市 古賀達也
○伊予朝倉の斉明天皇伝承を定説にするために 今治市 白石恭子
○史跡めぐりハイキング 古田史学の会・関西
○古田史学の会・関西例会のご案内
○『古代に真実を求めて』28集出版記念 新春古代史講演会のご案内
○編集後記 高松市 西村秀己
『古田史学会報』への投稿は、
❶字数制限(400字詰め原稿用紙15枚)に配慮し、
❷テーマを絞り込み簡潔に。
❸論文冒頭に何を論じるのかを記し、
❹史料根拠の明示、
❺古田説や有力先行説と自説との比較、
❻論証においては論理に飛躍がないようご留意下さい。
❼歴史情報紹介や話題提供、書評なども歓迎します。
読んで面白く、読者が勉強になる紙面作りにご協力下さい。
また、「古田史学の会」会則に銘記されている〝会の目的〟に相応しい内容であることも必須条件です。「会員相互の親睦をはかる」ことも目的の一つですので、これに反するような投稿は採用できませんのでご留意下さい。なお、これは会員間や古田説への学問的で真摯な批判・論争を否定するものでは全くありません。
《古田史学の会・会則》から抜粋
第二条 目的
本会は、旧来の一元通念を否定した古田武彦氏の多元史観に基づいて歴史研究を行い、もって古田史学の継承と発展、顕彰、ならびに会員相互の親睦をはかることを目的とする。
第四条 会員
会員は本会の目的に賛同し、会費を納入する。(後略)