第2441話 2021/04/23

『俾弥呼と邪馬壹国』読みどころ (その6)

大原重雄「メガーズ説と縄文土器 ―海を渡る人類」

 古田先生の『「邪馬台国」はなかった』で提起された諸説中、最も読者の評価が分かれたのが、同書最終章の一節「アンデスの岸に至る大潮流」に記された〝倭人の南米渡航説〟でした。倭人伝に見える次の記事を、倭人が太平洋を横断し、南米にあった裸国・黒歯国へ行ったと古田先生は理解されたのです。

 「また裸國・黑齒國有り。また其の東南に在り。船行一年にして至るべし。」『三国志』魏志倭人伝

 「この説は、読者がついてこれない。削除してはどうか」と編集者(注①)からの提案があり、刊行後も古田先生のご友人(最高裁判事)から「再版時に削除すべき」との忠告がありました。それでも古田先生は〝論理の導くところに従った結果〟であるため、そうした要請を謝絶されました。こうした〝いわくつきのテーマ〟を扱った論文を『俾弥呼と邪馬壹国』に収録しました。次の三編です。

○大原重雄「メガーズ説と縄文土器 ―海を渡る人類―」
○茂山憲史「古田武彦氏『海賦』読解の衝撃」
○古賀達也「バルディビア土器はどこから伝播したか ―ベティー・J・メガーズ博士の思い出―」

 なかでも大原論文は、バルディビア遺跡(エクアドル)から出土した南米最古の土器の製造技術を日本列島の縄文人が伝えたとするメガーズ博士(米、スミソニアン博物館)の説には同意できないというもので、南米大陸ではバルディビア土器よりも古い土器が出土しており、日本列島からの伝播とは断定できないとされました。もっとも、倭人が太平洋を渡った可能性までを否定されたわけではなく、考古学的出土事実に基づいて再検証を促されたものです。学問研究にとって貴重な提言ではないでしょうか。
 茂山論文は、『海賦』の記事に倭人が太平洋を横断した痕跡(イースター島のモアイ像やコンドルなどの描写、「裸人の国」「黒歯の邦」の表記がある)を古田先生が発見されたことの意義を改めて強調したものです。『海賦』は『文選』に収録された文章で、作者の木華は西晋の官僚です。すなわち、『三国志』を書いた陳寿と同時代の人物で、両者が南米にあった裸国・黒歯国を記録していたことは重要です。詳細は古田先生の『邪馬壹国の論理』(注②)をご覧下さい。
 わたしは、「縄文ミーティング」(注③)のために来日されたメガーズ博士の思い出と、当時のバルディビア土器についての学問論争を紹介しました。「洛中洛外日記」〝ベティー・J・メガーズ博士の想い出(1)~(4)〟で論じたテーマですので、ご参照下さい(注④)。

(注)
①『「邪馬台国」はなかった』は朝日新聞社から出版されたが、同書編集担当の米田保氏から「倭人の中南米への渡海説」削除の要請があった。古田先生はそれを拒絶され、米田氏も最終的に了解された。
②古田武彦『邪馬壹国の論理 ―古代に真実を求めて―』朝日新聞社、1975年。ミネルヴァ書房から復刊。
③1995年11月3日、東京の全日空ホテルで開催された。その内容は『海の古代史』(原書房、1996年)に載録されている。古田先生のご配慮により、わたしは録音係として傍聴する機会を得た。
④古賀達也「洛中洛外日記」2249~2252話(2020/10/04-6)〝ベティー・J・メガーズ博士の想い出(1)~(4)〟

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