第2207話 2020/08/19

滋賀県湖東の「聖徳太子」伝承(5)

 滋賀県湖東の地誌『蒲生郡志』によれば、この地方には聖徳太子の建立とされる寺院が二十以上あり、「願成就寺」の項には全部で四十九寺建立し、当寺がその四十九番目に当たると記されています。このような、ある地域に「聖徳太子」伝承が濃密分布している場合、歴史研究の方法(手続き)として、少なくとも次の三点の可能性を想定しなければなりません。

①近畿天皇家の「聖徳太子(厩戸皇子)」による史実、あるいはその反映。
②九州王朝の天子、阿毎多利思北孤あるいはその太子の利歌彌多弗利の事績が、後世において近畿天皇家の「聖徳太子(厩戸皇子)」伝承に置き換えられた。
③地元の寺院などの「格」を上げるために造作された。

 滋賀県は九州から遠く離れた地であり、『日本書紀』にも記されていない湖東の伝承は③のケースではないかと、当初、わたしはとらえていましたが、本シリーズで紹介した近年の出土例や発見により、今では②の可能性が高いと考えています。他地域の「聖徳太子」伝承を学問的に研究するうえでも、湖東の事例は貴重です。そして、その研究方法や成果は七世紀初頭の九州王朝の実態解明に役立つはずです。

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