第3596話 2026/02/20

辞書出版各社からの返答〔岩波書店編〕

 『角川外来語辞典』第二版(1977年)は、〝カメ〟について次のように説明しています。

 カメ【英 Come here!】(原義:来い)日本語では“洋犬”。それは、英米人が犬に向かって“来い、来い”と言ったのを、犬の意味に誤解したのに基づく。(以下、出典などが明記されている。)

 この語釈は誤りとする論文(注)コピーと手紙を角川書店、岩波書店、小学館、三省堂、新潮社の各社に出しましたが、角川書店からは同封した論文の「持ち込み原稿」扱いされ、送り返されました。次いで、岩波書店「広辞苑」編集部から返信が届きました。ちなみに『広辞苑』第三版には次のように記されています。

カメ(幕末・明治初期、英米人が、come here(こっちへ来い)といって犬を呼んだことからという)洋犬のこと。西洋道中膝栗毛「異人館の洋犬(カメ)」。〔『広辞苑』第三版、1988年〕

【岩波書店からの返信】
拝啓 晩秋の候、古賀様におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。また、日頃より広辞苑をご愛用いただき、感謝いたします。
さて、今回は「カメ」についての論文をお送りいただき、ありがとうございました。たいへん興味深く拝読いたしました。御説の中には、「なるほど」と思う部分がいくつもございました。

 やや言い訳がましくなりますが、ご存じの通り、広辞苑では「カメ(幕末・明治初期、英米人が、come here といって犬を呼んだことからいう)洋犬のこと。」と解説しています。このうち語源説の部分については「〜という」で終えており、断定的な言い回しをしておりません。また、「メリケン・カメ」の栞(注②)につきましても「『カメや』と勘違いしたのだとか。」と「〜とか。」で終えています。

 論文の中で触れられていますように、「カメ」が「come here」から転じたものであるとする語源説は、古くから広く流布しております。広辞苑としては、「その語源説について断定するだけの確証はないが、広く流布している語源説として紹介する」という立場から、現在のような解説を付しています。

 御説について、軽々に判断することはできませんが、たいへん貴重なご意見と存じます。次版の改訂作業における課題として、「カメ」についての過去の論考とあわせて検討させていただきたく存じます。今後とも、お気付きの点がございましたら、ご指導くださいますようお願い申し上げます。
取り急ぎ要件のみにて失礼いたします。どうぞこれからも広辞苑をご愛用くださいませ。最後になりましたが、時節柄ご自愛くださいますようお願い申し上げます。

敬具
一九九七年一一月二〇日
岩波書店辞典部 広辞苑編集部
【転載おわり】

 さすがは日本を代表する中型国語辞典『広辞苑』の編集部。見事な返答にますます広辞苑が好きになりました。拙論に賛意を表しながらも、しっかりと編集方針の釈明も行い、検討を約束する。そして、引続き広辞苑の愛用を促すといった営業的視点と礼儀を兼ね備えた返信です。この岩波からの返答のおかげで、角川による私の不機嫌が一気に吹き飛んでしまいました。次に来たのが小学館。こちらはもっと感動的な文面でした。(つづく)

(注)
①古賀達也「〝カメ(犬)〟は「外来語」か」『北奥文化』18号、北奥文化研究会、1997年。
https://www.furutasigaku.jp/jfuruta/kaihou47/koga471.html
②岩波文庫に挟んである栞に、カメ外来語語源説を紹介したものがあった。

〖写真の説明〗岩波書店広辞苑編集部からの返信。広辞苑第七版の販売風景。NHKドラマ「舟を編む」のワンシーンに登場した広辞苑。

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