第1468話 2017/08/03

『塩尻』の「三倍年暦」?

 江戸時代の尾張の学者、天野信景翁の随筆『塩尻』(内閣文庫所蔵百巻本の活字本)を読んでいます。内容は多岐にわたり、著者の博学が遺憾なく発揮されています。
 その中で、インドにおける「三倍年暦」かと思われるような次のような記述が目に留まりましたので、ご紹介します。

○天竺の暦は一歳を三季とせり。熟時〔自正月至四月〕、茂時〔自五月至八月〕、實時〔自九月至十二月〕。されは正五九月は印土三季の初月也。阿蘭陀の暦は二十四時とし一時を六十刻と定め、酉の時を一日のはしめとす。閏月を置ずして寒暑たかはさる法あり。されは萬國暦法同しからず。或は建寅の月を歳首とし、亦春分を年始とするもあり。阿蘭陀は唐の冬至より十日目に當る日を元日とか。或は國によりて月虧初る日を一月の初とさたむ。
 ※〔〕内は二行細注。句読点は古賀が付した。

 以前に古代インドにおける二倍年暦に関する論文「二倍年暦の世界」(『新・古代学』7集、2004年。新泉社)を発表したことがありますが、そのときは法華経や原始仏教教典などを史料根拠に釈迦や高齢の弟子等の年齢表記が二倍年暦によるものとしました。
 『塩尻』に記されたこの「三倍年暦」の史料根拠はわかりませんが、しかし「三季」とありますから、日本の四季に対応するものがインドでは「三季」とされるということで、一年を三年と数える「三倍年暦」ではなさそうです。

フォローする